極小の粒がCO2をキャッチ、利用広がる新素材MOF

脱炭素を後押し、クリーンエネルギーの生成も

4月 20, 2023
by Ruiko kokubun
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J-STORIES - 石油に代わるエネルギーの主役として環境負荷の少ないガス利用の重要性が高まる中、様々なガスの吸着、分離、貯蔵などの機能を持つ新素材、MOF(Metal Organic Framework,、金属有機構造体)の専門技術や知見を生かし、多くの産業分野でガス制御の改善や脱炭素戦略を後押ししているスタートアップ企業がある。
MOFclean 紹介動画     シンクモフ 提供
この会社は、2019年に創業したSyncMOF(シンクモフ、名古屋市)。社長兼CEO(最高経営責任者)の畠岡潤一さんと副社長兼CTO(最高技術責任者)の堀彰宏さんは15年ほど前に、JST(科学技術振興機構)のMOF開発プロジェクトで出会い、MOFが持つ大きな可能性を共に確信して新ビジネスの準備を始めた。堀さんは名古屋大学で教鞭をとったこともあり、同社は同大学から「名大発ベンチャー」として認定されている。
MOFの選定、合成から装置設計まで一気通貫で担うのが強みだ。写真はMOFの活性化装置&nbsp; &nbsp; &nbsp;シンクモフ 提供<br>
MOFの選定、合成から装置設計まで一気通貫で担うのが強みだ。写真はMOFの活性化装置     シンクモフ 提供
MOFは金属と有機物(炭素など)で構成される多孔質の結晶性物質。金属と有機物がジャングルジムのように結びついた構造になっており、回収したガスの分子がジャングルジムの隙間に貯蔵される。MOFは直径1ミクロン(1000分の1ミリ)という極小の物質だが、1グラムの表面積がサッカーコート1面の広さに匹敵するものもあり、大量のガスを回収・保存できる。
MOFは吸着・回収したいガスの分子に合わせてデザインの変更も可能だ。様々なガスに対応でき、例えば排ガスなどの中からCO2(二酸化炭素)だけを効率よく取り出せる。
「卵がCO2だとすると、MOFは卵を入れるケース。CO2が収まりやすい空間をつくることができる」と畠岡さんは説明する。MOFには回収したガスの分子を別の分子に変える触媒機能もあるなど、ガスを自在に制御、設計するための手段になる。
シンクモフの強みはMOFの合成や販売だけでない。MOFを手掛ける他の企業とは異なり、同社はMOFを活用するためのコンサルティングやエンジニアリングも含めた総合的なサービスを提供している。MOFに対するニーズを個別に聞き取り、10万種類以上の中から最適のMOFを選び、性能を評価し、合成に向けてのシステム開発を行う。
CO2回収装置は業務用冷蔵庫ほどの大きさ。装置の大型化を検討している&nbsp; &nbsp; &nbsp;シンクモフ 提供<br>
CO2回収装置は業務用冷蔵庫ほどの大きさ。装置の大型化を検討している     シンクモフ 提供
こうした対応が注目され、同社の取引先は、創業わずか4年あまりで商社、製鉄、自動車、医療、家電メーカーなどすでに数百社に増加した。MOFの用途は、発火性のあるガスの運搬、有毒ガスの吸着など幅広いが、脱炭素など環境対策へのニーズを反映し、CO2関連の受注が同社の事業の追い風になっている。
大気中のCO2を回収する技術や装置はすでに米国や日本などの大手企業が開発や実用化を推進している。シンクモフもMOFを使ったCO2回収装置を実用化し、大手企業に導入している。「製鉄会社に納品している業務用冷蔵庫程度の大きさのCO2回収装置は、1分あたりに5リットルのガスが処理ができる。工業的には装置の大型化を検討している」(堀さん)という。
シンクモフの堀彰宏・取締役副社長兼(左)と畠岡潤一・代表取締役社長兼最高経営責任者(右)&nbsp; &nbsp; &nbsp;シンクモフ 提供<br>
シンクモフの堀彰宏・取締役副社長兼(左)と畠岡潤一・代表取締役社長兼最高経営責任者(右)     シンクモフ 提供
昨年12月には、リゾート地として有名な長野県白馬村へMOF1キログラムを寄贈した。23年1月には、白馬村のスキー場でスキーをしながらCO2を回収するユニークなイベントも行った。MOFの認知度を高める狙いもあるが、それだけではない。「世界中の富裕層が集まるリゾート地の白馬村で、シンクモフのビジネスを知ってもらい、パートナーを増やす狙いもある」と堀さんは言う。
シンクモフは経営戦略もユニークだ。外部から資金調達し、成長投資するという多くのベンチャー企業とは違い、同社は自己資金のみ、無借金経営で成長を続けている。創業直後から取引先企業が増え、業績が堅調に拡大していることが大きな理由だが、同時に畠岡さん、堀さんとも自営業の実家から学んだ「投資家のルールで商売をしないほうがいいという考え」(畠岡さん)で事業に取り組んでいるという。
ガス制御のスペシャリストとして、同社が取り組む次の挑戦は日本国内にクリーンなガスエネルギーの資源を作り出すことだ。MOFはCO2を分離・回収するだけではなく、脱炭素燃料として活用が期待される水素の貯蔵もできる。日本はエネルギー供給の大半を輸入に頼っている。堀さんは「日本発のエネルギーを生み出すチャレンジを重ねていきたい」と話している。
記事:国分瑠衣子 編集:北松克朗
トップ写真: シンクモフ提供
この記事に関するお問い合わせは、jstories@pacificbridge.jp にお寄せください。

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