J-STORIES ー 今年4月に総務省が発表した統計によれば、日本は65歳以上の人口比率が過去最高の29%に達し、世界一の「超高齢化社会」の道を進んでいる。
それとともに急増しているのが認知症の患者数だ。「日本における認知症の高齢者人口の将来推計に関する研究」によれば、65歳以上の認知症患者数は2020年に600万人を超え、2025年には約675万人(有病率18.5%)に達する見込み。高齢者人口とされる65歳以上の5人に1人以上が認知症を患うことになる。
認知症の克服にはより効果的な治療法が必要であることはもちろんだが、日本では認知症患者や家族が孤立せず、社会と様々なつながりを広げ、支援も享受できる政策を推進している。そのひとつが地域の交流拠点、「認知症カフェ」だ。
認知症カフェとは、認知症患者や家族、医療や介護の専門者などが気軽に集まり、情報交換や交流ができる場で、1997年にオランダで始まった「アルツハイマー・カフェ」をモデルにしている。現在、各地方自治体に登録されている認知症カフェは約8000カ所、東京23区内にだけでも600以上あるという。
認知症カフェには、患者がいろいろな活動を楽しんだり、自ら店員になって働くことができるところもある。ほとんどが非営利の施設で、営業している場所は民家や美術館、観光地など様々だ。一時的に開催されるPOP-UPスタイルの店舗も多い。
社会が認知症を特別視せず、共に生きるという意識を広げる、というのが認知症カフェの大きな目的だ。日々の暮らしの中で社会との様々なつながりを維持できれば、患者の健康や活力増進にもつながっていく。
同時に、それは介護や医療費など膨れ上がる社会保障支出の抑制にもつながる。高齢化にともなって膨張を続ける社会保障費は財政を圧迫する大きな要因だ。日本の団塊の世代は25年には全員75歳以上となり、認知症患者の増加が懸念されている。
日本政府は、認知症になる時期を1年遅らせることで認知症患者の割合を減らす計画を立てており、70代における認知症患者の割合を2025年までの6年間で6%減らすという数値目標を2019年に公表した。自治体の予算によって支えられている認知症カフェの拡大は、その目標達成に向け患者を減らす効果的な方法とみられている。
最近の研究で、認知症の人が社会的な関わりを持つことで脳機能が変化することが明らかになってきた。研究を主導するのは、2018年にプラットフォーム「認知症未来共創ハブ」を立ち上げた慶應義塾大学大学院健康マネジメント研究科の堀田 聰子教授だ。堀田教授の研究では、認知機能が低下した人々が社会的に活動したり、自分たちのコミュニティで生活することで、自信と自立心が芽生えたり、健康状態について自分の意見を述べるようになったことなどが報告されている。また、介護される側のポジティブな変化が、介護者の負担軽減にも繋がったという。
東京都目黒区にあるD-caféは、日本で最も早く始まった「認知症カフェ」の一つだ。店主の竹内弘道氏は「私たちは認知症の人たちの孤立感をなくし、対話を促すために、リラックスしたカフェスタイルの環境を提供しています。家族や支援者が参加することで、介護を受ける人々をありのままに受け入れる必要性への意識も高まっています」と語る。
認知症カフェの意義について、竹内氏は認知症患者だけではなく、「異なる能力を持つ人を受け入れる多様な社会の実現の為に非常に重要」だと主張する。「利用者である多くの家庭が追加の医療費を払う必要がなくなり、介護施設に行く回数も減ります。その意味で、私たちのDカフェ・サービスは社会にも良い効果をもたらしていると思います」。
厚生労働省によると、2022年、認知症予防・認知症社会支援事業の政府予算は127億円から132億円に増加した。2023年には「共生社会の実現を推進するための認知症基本法」も新たに制定された。同法は、認知症の人が希望と尊厳をもって生きる権利を謳っている。
海外の専門家は、日本の認知症カフェの成功の鍵は、高齢者を大切にする文化にもある、と指摘する。2017年に発表された「日本からの教訓」と題された英国の報告書によると、専門家は東京の認知症カフェで見たボランティアの患者への対応が「偏見がなく、温かいサポートでとても印象的」だったと述べている。
同時に、日本政府にとっての大きな課題は、こうした介護人材の確保だ。2025年までに介護従事者の人手不足は32万人に達するとも推定されており、早急な政策対応が迫られている。
※この記事は英文記事を編集部にて日本語に翻訳したものです。
記事:ドリーニー・カクチ 編集:北松克朗
トップ写真:D フレンズ町田
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