[PODCAST] ユニコーン企業の数え方が隠す日本の可能性 (Part 3)

In partnership with Disrupting JAPAN

16時間前
BY DISRUPTING JAPAN/TIM ROMERO
[PODCAST] ユニコーン企業の数え方が隠す日本の可能性 (Part 3)
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JSTORIESでは、革新的な取り組みを行う日本のスタートアップを海外に紹介している人気ポッドキャスト番組 [Disrupting JAPAN]とコンテンツ提携を開始し、最新のエピソードや過去の優れたエピソードの翻訳版を4回に分けて紹介していきます。本編(英語版ポッドキャスト)は、こちらで聴取可能です。
Disrupting JAPAN:Disrupting JAPANは、Google for Startups Japan の代表で東京を拠点に活動するイノベーター、作家、起業家であるティム・ロメロ氏が運営するポッドキャスト番組(英語)。ティム氏が数年後には有名ブランドになるポテンシャルがあると見出したイノベーティブな日本のスタートアップ企業をピックアップして、世界に紹介している。
Disrupting JAPAN:Disrupting JAPANは、Google for Startups Japan の代表で東京を拠点に活動するイノベーター、作家、起業家であるティム・ロメロ氏が運営するポッドキャスト番組(英語)。ティム氏が数年後には有名ブランドになるポテンシャルがあると見出したイノベーティブな日本のスタートアップ企業をピックアップして、世界に紹介している。
ティム・ロメロ氏:Google for Startups Japan 代表。東京を拠点に活動するイノベーターであり、作家であり、起業家でもあるなど多彩な肩書きを持つ。東京電力など日本の大企業と協力して、新しいテクノロジーを使った新しいビジネスを生み出したり、ニューヨーク大学の東京キャンパスで企業のイノベーションについて講義を行ったり、雑誌などへの寄稿を行う中で、日本のスタートアップと世界の架け橋になるべくポッドキャスト番組「Disrupting JAPAN」を立ち上げた。
ティム・ロメロ氏:Google for Startups Japan 代表。東京を拠点に活動するイノベーターであり、作家であり、起業家でもあるなど多彩な肩書きを持つ。東京電力など日本の大企業と協力して、新しいテクノロジーを使った新しいビジネスを生み出したり、ニューヨーク大学の東京キャンパスで企業のイノベーションについて講義を行ったり、雑誌などへの寄稿を行う中で、日本のスタートアップと世界の架け橋になるべくポッドキャスト番組「Disrupting JAPAN」を立ち上げた。

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日本には、予想されているほど、またはベンチャーキャピタリストが望むほどのユニコーン企業(評価額が10億ドル以上の非公開企業)は存在していません※。
しかし、その事実の裏には非常に興味深いストーリーが隠れています。
今回は、Coral Capital の創業パートナーCEOであるジェームズ・ライニーさんをお迎えし、日本でユニコーン企業を数える時の危険性について解説していただきます。
さらに、日本が今後10年間で世界をリードする可能性のあるスタートアップ分野や、日本のスタートアップにおける独自の価値を見極める方法についても詳しく掘り下げてお話しします。
また、この10年間で日本がいかにシリコンバレーに近づいたか、そしてこれからどのように大きく異なる道を歩もうとしているのかについても議論します。
とても興味深いお話ですので、きっとお楽しみいただけると思います。
※2024年の日本のユニコーン企業の数は、為替などで変動があるが約10社。
(全4回の3回目。 Part2の続きから)

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日本のVC市場に欠けていたものとは

写真左より2人目が500 Startups Japan 代表(当時)のJames Rineyさん  提供:500 Startups Japan
写真左より2人目が500 Startups Japan 代表(当時)のJames Rineyさん  提供:500 Startups Japan
ティム: Coral Capital の将来について話す前に、少し創業期の話に戻りたいと思います。御社は早い段階から、起業家に対し資本だけでなく多面的な支援を行うことに注力した、非常に先駆的なファンドの一つだったと思いますが、その点についてお聞かせいただけますか?
ライニー: ありがとうございます。
ティム: 創業当初から単に資金提供をするだけでなく、教育コンテンツを作成したり、起業家と共同創業者やスタッフをつなぐ取り組みをされてきましたよね。そのようなアプローチを取ることにした背景について教えていただけますか?それは500 Startups Japan(以前の会社)での経験から来たアイデアなのでしょうか?それとも、Coral Capital独自の考えによるものなのでしょうか?
ライニー: はい、いくつかの理由が組み合わさっています。一つは、私自身も起業家だったので、起業家として「こんな支援が欲しかった」と思えるような仕組みを作ろうと考えたからです。もう一つは、当時の日本にはシリコンバレー型のVC(ベンチャーキャピタル)が本当に存在していなかったことです。日本版Y Combinator(Yコンビネーター)やAndreessen Horowitz(アンドリーセン・ホロウィッツ、略称a16z)、Founders Fund(ファウンダーズ・ファンド)といったVCが全くありませんでした。これらはそれぞれ特徴が異なる企業ですが、共通しているのはベンチャーマインドを持っているということです。日本にはそういったVCがほとんどなく、資金の多くは銀行のベンチャー部門や、必ずしもベンチャーマインドを持っているとはいえない事業会社のCVC(コーポレートベンチャーキャピタル)から提供されていました。控えめに言っても、そういう状況だったのです。

新しいタイプのVCをつくるという決意

ティム: はい、同感です。私も起業家とVC、両方の立場を経験していますが、当時の多くの国内のVCは、自分たちをもっと「形式的な役割」として捉えていたと思います。資金を提供し、四半期ごと、または起業家にとって厳しいことに、時には月次で進捗を確認するというような感じでしたね。
ライニー: はい、その通りです。
ティム: 資金を無駄遣いしていないか確認するためですよね。
ライニー: 月次が日本では標準とされていること自体が、私にはおかしいと思います。
ティム: そうですね。資金調達の際、LP(有限責任組合員、ファンドへの出資者)の方々にはそのような話をされたのでしょうか?新しいタイプのVCを作りたいと。
ライニー: はい、基本的にはそうです。最初の頃、日本の市場には新しいタイプのVCを求めるニーズがあり、それをまだ誰も実現していませんでした。そして、ある意味で私たちには、シリコンバレーなどの先進的な市場でVCがどのように機能しているのかを知ることができるという利点がありました。彼らのやり方をそのまま日本に適用したわけではありませんが、私たちに合う方法を選んで取り入れました。そして今、最終形とは言えませんが、かなり成熟した形になってきたのは確かです。

「エコシステムVC」の誕生

ティム: そうですね。今では成功例を挙げることができ、リターン(収益)だけでなく、構築したエコシステムを示して「これが価値を生み出しています」と言えますね。LPの方々もそれを理解できるでしょう。しかし、最初のファンドを立ち上げる時、シリコンバレー型のVCというのは日本では新しいアイデアでした。LPに対して、この特徴を強調して説明したのでしょうか?それとも、まず資金を集めてから、実行に移すつもりだったのでしょうか?
ライニー: スタートアップと同じように、段階的に進めていく必要がありました。すべてを一度にできるわけではないので、最初のファンドは500 Startupsと協力して進めました。そして、私たちは「日本でシリコンバレー型の企業を作る」と決め、そのブランドを活用し、シリコンバレーのVCのように物事を進めるというスタンスでした。そのアプローチ自体がストーリーとなり、それで十分だったのです。最初のファンドで実績を作り、その後、2号ファンド、3号ファンドからは、今の私たちの活動の基盤を作り始めました。現在では、私たちは自社をエコシステムVCと呼んでいて、これまでに100社以上に投資してきました。どのスタートアップにもそれぞれの課題がありますが、共通しているのは、資本をより多く、時にはかなりの額を必要としていること、優秀な人材へのアクセスが必要なこと、そして、自社をどのように成長させていくべきかというノウハウや効果的な方法へのニーズです。

成功のスピードと加速、規模を拡大させる支援

基本的に、VCはスタートアップの成功を直接与えることはできません。しかし、成功までのスピードを加速させ、規模を大きくさせることはできます。そこで、成功を加速させることに重点を置き、スタートアップが直面する共通の課題を特定して対応しています。そして、資金調達のためのプラットフォームやDemo Day(デモデイ、投資家とつながるためのプレゼンテーションイベントのこと)を用意し、一度に主要な投資家たちと出会える機会を提供します。
また、私たちは成功の秘訣もスタートアップと共有しています。これが自社にとって不利になる場合もあります。たとえば、次の投資ラウンドで安い条件で投資を増やしたいと思っても、秘訣を共有することでその企業の価値が上がり、結果としてより高い価格でしか投資できなくなることがあるのです。それでも、一度私たちが出資しキャップテーブル(企業の資本構成)に加わると、その企業を徹底的にサポートします。他の投資家を引き付けられるよう、その企業の状態を最良のものに整えることに全力を注いでいます。

情報発信を強化し、採用支援も

さらに、採用支援も行っています。実は、この分野が私たちの最も得意とするところかもしれません。私たちは、年間で約200人をポートフォリオ企業(投資している企業) に紹介・採用しています。
これが実現できたのは、私たちが早い段階から情報発信に大きく力を入れてきたからです。現在、私たちは日本のスタートアップやVC業界で最大規模の情報サイトを運営しており、毎月10万人以上が私たちの記事を読んでいます。この多くの読者を基盤として、Coral Careersというスタートアップでの仕事探しをサポートするための専用サイトを作りました。このサイトでは、応募者が登録した情報がデータベースに保存され、ポートフォリオ企業の採用担当者がその情報を直接確認し、応募者に連絡を取れる仕組みになっています。この仕組みを通じて、毎月約10人が採用されており、現在データベースには約1万5千人が登録されています。非常に大きな規模です。

次のラウンドの資金調達とチーム形成をサポート

ティム: 米国では、ポートフォリオ企業が次のラウンドで資金を調達する際、VCがそれを支援するのは、ほとんど当然の役割とされています。一方で、日本のVCはこれまでそのように考える傾向があまりなかったように思います。この状況に変化が見られるとお感じですか?
ライニー: VCによりますね。通常、VC同士はフレネミー(友人であり競争相手)のような関係です。あるときは競い合い、またあるときは飲み仲間として案件を紹介し合うこともあります。
私たちは、資金調達だけでなく採用のプロセスも効率化し、一貫した方法で進められるように仕組みを整えています。そして、そのプロセスに関わるすべての人々(ポートフォリオ企業の担当者やCoral Capitalのスタッフなど)が、統一された方法で業務を進められるようにプログラムを運営しています。また、VCや事業会社の投資家など、投資グループの全パートナーや主要な意思決定者と一度に会える場を設けています。その後も資金調達の進捗をフォローアップし、サポートを続けています。
一見するとシンプルな取り組みのように思えるかもしれませんが、日本の他のVCはこうした方法をまだ取り入れていないのが現状です。
ティム: おっしゃる通り、成長中のスタートアップの創業者にとって、次のラウンドの資金調達と、採用活動を通じたチームづくりは、重要なポイントですね。他に何か欠けていることはありますか?どのような要素がさらに必要だとお考えですか?

Y Combinator式の情報共有コミュニティづくり

ライニー: 最後に重要なのは、資金調達をして、その資金で人材を採用した後に、次にどうやって会社を成長させていくのかという点です。例えば、「どのHR(人事管理)ツールを使えばいいのか」といった基本的なことから、「ストックオプション制度(社員に会社の株式を購入する権利を与える仕組み。効果的に導入するには仕組みの設計や社員への説明が重要)を導入したいけれど、それをどう説明すればいいのか」といった具体的な課題まで、さまざまな問題に直面することになります。
ティム:  Y Combinatorの要素がありますね。
ライニー: その通りです。私たちは、アクセラレーター(スタートアップの成長を短期間で加速させるための支援プログラムやその運営組織、Y Combinatorはその代表的な例)は行っていませんが、Y Combinatorのようなコミュニティを日本に構築しました。それがまさに私たちの目指すところです。具体的には、創業者や従業員が気軽に利用できるコワーキングスペースを提供し、そこでCFO(Chief Financial Officer、最高財務責任者)同士やマーケティング担当者同士が情報交換をできる場を作っています。私たちは全体を見渡せる高レベルの情報を持っていますが、リアルタイムで現場の最前線にいるわけではありません。実際に現場で働いている人たちこそが、その時点で最も重要で実用的な情報を持っています。そのため、そうした情報をポートフォリオ企業全体に素早く共有することが、私たちにとって非常に大切なのです。

日本のVCエコシステムの変化

ティム: 1号ファンドを立ち上げた当時、これは日本では新しいコンセプトでしたが、今ではより一般的になってきているのでしょうか?このようにポートフォリオ企業に価値を加えようとするVCが増えてきていると感じますか?
ライニー: はい。私たちを真似しようとする人は多いですが、実際には構造的に非常に難しいこともあります。例えば、従来型の投資モデルを採用しているVCの場合、投資を行う際にリード投資家としてボードに参加(出資する企業の取締役会に参加して経営に関与すること)することが多く、その場合、人材データベースを作ったり、そのデータベースへの応募を増やす方法を考えたりするための時間は、なかなか確保できません。
ティム: そういった実際の実行面から一歩引いて考えると、VCが考えるべきVCの役割が変わりつつあるという感触はありますか?日本のVCは、VCがこういった役割を果たすべきだという考えを受け入れ始めていると思いますか?
ライニー: はい、そう思います。気付き始めた企業は数社ありますが、まだほんの一部に過ぎません。確かに市場は変わりつつありますが、私たちのおかげだとは言いません。ただ、私たちがシステムに刺激を与えたことは確かだと思います。
ティム: いいえ、運用資産額からは想像できないほど、日本のVCエコシステムに大きな影響を与えたと思います。
ライニー: ありがとうございます。

異端児だからこそ出来たユニークなアプローチ

ティム: なぜ多くのVCは今でも投資資金の提供だけに力を入れているのでしょうか?単に従来のやり方を続けているのでしょうか?それとも組織の規模が大きいため、あまり気にする必要がないと考えているのでしょうか?
ライニー: 日本のVCのほとんどは金融やコンサルティングのバックグラウンドを持っています。それが悪いわけではありません。実際、そういったバックグラウンドを持ち非常に成功しているVCはたくさんいます。しかし、起業家や経営者としての経験があると、物事の見方が違ってきます。同じ問題に対する解決策も異なります。私たちはベンチャーキャピタルをひとつのプロダクト、つまり事業や製品開発のように捉えてきたため、自分たちでツールを作り、似たような問題に対して独自の創造的な解決策を考えてきました。もし自分たちも同じバッググランドを持っていたら、今のようなユニークなアプローチは取れなかったでしょう。私たちは業界にとって少し異端な存在なのです。

外国人として日本でVCを設立する

ティム: それでは、改めてお聞きします。外国人として日本でVCを設立することは、有利に働きましたか?それとも不利に働きましたか?それともその両方の面があったのでしょうか?
ライニー: その両方ですね。少しずつ両方あります。読者のために背景を説明すると、私は日本で半分育ったようなものです。12歳までは日本に行ったり来たりしていたので、日本語はかなり流暢に話せます。ただし、どれだけ長く日本に住んでいても、見た目は変わりません。だから、私はやはり「ガイジン」と見なされます。そうですね、いくつかの面ではそれが役立ち、いくつかの面ではそれが不利に働きます。
役立つ面としては、たとえネイティブ並みの日本語を話せても、文化的なマナーやルールをあまり気にせずに行動できる点です。例えば、意思決定者に直接アプローチしたり、「ぜひあなたの会社に投資したい」とストレートに伝えたりできます。一方で不利な点としては、グローバルな考え方を持った起業家とはうまくコミュニケーションが取れるのですが、国内志向の起業家とのやり取りは難しいこともあります。そういった場合、チーム内の他のメンバーが繋がりを持ってくれるので、チーム間で異なる化学反応が生まれるわけですね。それが一例です。

「この人は一体何者だ?」—日本における挑戦者への反応

また、私たちが最初に立ち上げたとき、VC業界では真剣に受け止められていませんでした。それでも資金を調達できたのは、明らかに私たちを信じてくれるLPがいたからです。ただ、昔ながらのVCたちは、今ではとても親しくしていますが、当時は「この男は誰だ?」という感じでした。そして、私たちがSAFE(Simple Agreement for Future Equity、主に米国のスタートアップで使われる資金調達契約の一種)の日本版であるJ-KISSを立ち上げた際には、「こんなやつが何を言っているんだ?日本で資金調達の契約書類のスタンダードを作ろうとしているのか?」という反応でした。
ティム: そうですね、「この人は一体何者だ?」という態度が、日本を足止めしている大きな原因の一つだと思います。誰かが「これをやってみたい」と言うと、周りの50人が「この人、何様だ?」と反応する感じですね。
ライニー: そう思います。ただ、公平を期すために言うと、当時私は26歳だったので、シリコンバレーでも同じことが起きたかもしれません。それにしても、J-KISSは、今では非常に広く使われていて、政府の文書や公的な出版物にも「J-KISSをサポートしています」と記載されています。また、税制上のメリットもありますので、ぜひその点も知っておいてください。

「ノー」はプロセスの一部

ティム: もちろん、ビジョンを信じてくれたLPがいたわけですが、新しいファンドには常に懐疑的な見方がつきものですよね。
ライニー:はい、起業家精神を持って生きることも、一般的な人生を歩むことも、常に懐疑的な目にさらされるものです。それは避けられないことです。私たちも非常に早く資金調達を成功できたことには感謝していますが、実際にどれだけ多くの「ノー」があったのかは、あまり理解されていないと思います。「ノー」はプロセスの一部であり、フィードバックとして受け止めれば、精神的に少し楽になれるものです。
(第四回に続く)
第四回では、海外VCが日本市場で直面する課題と、ユニコーン企業数の捉え方に関する日本特有の事情についてお話を伺います。
[このコンテンツは、東京を拠点とするスタートアップポッドキャストDisrupting Japanとのパートナーシップにより提供されています。 ポッドキャストはDisrupting Japanのウェブサイトをご覧ください]
翻訳:藤川華子

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本記事の英語版は、こちらからご覧になれます
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