[PODCAST] 日本でSaaSがこれほど急速に成長している理由 (Part 2)

In partnership with Disrupting JAPAN

12月 13, 2024
BY DISRUPTING JAPAN/TIM ROMERO
[PODCAST] 日本でSaaSがこれほど急速に成長している理由 (Part 2)
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J-STORIESでは、革新的な取り組みを行う日本のスタートアップを海外に紹介している人気ポッドキャスト番組 [Disrupting JAPAN]とコンテンツ提携を開始し、最新のエピソードや過去の優れたエピソードの翻訳版を4回に分けて紹介していきます。本編(英語版ポッドキャスト)は、こちらで聴取可能です。
Disrupting JAPAN:Disrupting JAPANは、Google for Startups Japan の代表で東京を拠点に活動するイノベーター、作家、起業家であるティム・ロメロ氏が運営するポッドキャスト番組(英語)。ティム氏が数年後には有名ブランドになるポテンシャルがあると見出したイノベーティブな日本のスタートアップ企業をピックアップして、世界に紹介している
Disrupting JAPAN:Disrupting JAPANは、Google for Startups Japan の代表で東京を拠点に活動するイノベーター、作家、起業家であるティム・ロメロ氏が運営するポッドキャスト番組(英語)。ティム氏が数年後には有名ブランドになるポテンシャルがあると見出したイノベーティブな日本のスタートアップ企業をピックアップして、世界に紹介している
ティム・ロメロ氏:Google for Startups Japan 代表。東京を拠点に活動するイノベーターであり、作家であり、起業家でもあるなど多彩な肩書きを持つ。東京電力など日本の大企業と協力して、新しいテクノロジーを使った新しいビジネスを生み出したり、ニューヨーク大学の東京キャンパスで企業のイノベーションについて講義を行ったり、雑誌などへの寄稿を行う中で、日本のスタートアップと世界の架け橋になるべくポッドキャスト番組「Disrupting JAPAN」を立ち上げた。
ティム・ロメロ氏:Google for Startups Japan 代表。東京を拠点に活動するイノベーターであり、作家であり、起業家でもあるなど多彩な肩書きを持つ。東京電力など日本の大企業と協力して、新しいテクノロジーを使った新しいビジネスを生み出したり、ニューヨーク大学の東京キャンパスで企業のイノベーションについて講義を行ったり、雑誌などへの寄稿を行う中で、日本のスタートアップと世界の架け橋になるべくポッドキャスト番組「Disrupting JAPAN」を立ち上げた。

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SaaS(Software as a Service:DropboxやZoom、Salesforceなどクラウド上で提供されるソフトウェアのこと)スタートアップの評価額や成長率は、世界のほとんどの地域で急激に下落していますが、日本ではその傾向は見られません。
日本のSaaSスタートアップは急速に成長しており、このトレンドは今後5年間でさらに加速すると予測されています。
本日は、One Capitalの浅田慎二さんに、日本のまだ開拓されていないSaaS市場の可能性、彼独自のSMB(Small and Medium-sized Businesses:中小規模の企業、特に小規模企業や中堅企業を含む)と製品に焦点を当てた投資方針、そして日本のスタートアップエコシステムで起きている大きな変化についてお話を伺いました。
非常に興味深い対談であり、きっと楽しんでいただけると思います。
(全4回の2回目。Part1の続きから)

ファンドを通じた、デジタル化を推進する企業・官公庁へのサポート

One Capitalの創業者である浅田慎二さん    提供:One Capital
One Capitalの創業者である浅田慎二さん    提供:One Capital
ティム: さて、1号ファンドでは、LP(有限責任組合員、ファンドへの出資者)に対し、デジタル技術を活用した業務改善のアドバイスを提供し、具体的には社内ツールやシステムの改善をサポートされていました。2号ファンドでも、同様の取り組みを引き続き行っているのでしょうか?
浅田: はい。1号ファンドを始めたとき、LPに対して、一般的にはIRR(内部収益率)やキャッシュ・オン・キャッシュ(投資した資金に対してどれくらいの現金収益が得られるか)といった利益の見込みを説明し、ファンドを一種の金融商品として売り込むという方法がよく取られていました。でも、それは、すごく退屈だと思ったのです。なぜVC(ベンチャーキャピタル)は、LP側の視点で新しいやり方を取り入れないのだろう?と考えました。それで、チームでブレインストーミングをして、LPを対象としたハイブリッドモデルを作ろうという話になりました。1つ目は、通常のLP。これはリターン(利益率や投資の成果)を重視するタイプです。2つ目は、戦略的LPと呼べるもので、企業が抱えているデジタル化の課題を解決するためのものです。そして、攻めと守りの戦略をシンプルに取り入れます。例えば、守りでは、その企業がどんな社内システムを使っているのかをまず調べ、理解します。すると、多くの場合、自社のデジタル化を推進する目的でファンドに投資している、大企業や官公庁などは、だいたい200種類ほどのシステムを使っていて、そのほとんどが古いオンプレミス型(会社内のサーバーで動くシステム)なのです。そこで、私たちは代替案として、現代的なSaaS型のプロダクトを提案します。ただし、すべてを一度に切り替えるのは難しく、特に重要な部分はオンプレミスのままにする必要があります。このようにして、企業内部のIT環境を少しずつモダンなものに変えていくプロジェクトを進めるのです。

「私たちはLPのためのCVCではない」

ティム:  あなたのアプローチにはCVC(コーポレートベンチャーキャピタル、企業が自社の成長や技術革新などを目的にスタートアップに投資する形態)のアプローチが感じられますね。つまり、単に金銭的なリターンだけでなく、LPに対して戦略的な価値も提供するということですね。では、そのようなLPとの会話が、あなたが投資するスタートアップを選ぶ際に影響を与えているのでしょうか?
浅田: いえ、それはまったく別の話です。私たちの投資方針は、80%をSaaSやエンタープライズソフトウェアに集中させ、残りの20%をヘルスケアやファイナンスのサブスクリプション型ビジネスに焦点を当てています。しかし、投資の大部分はエンタープライズソフトウェアに向けられます。ですので、それに対する影響はありません。ただ、私たちは、デジタル改革を進める企業が掲げる大きな目標を支援しているだけです。
ティム: そして、ポートフォリオ企業(既に投資している企業)でも、パイプライン企業(まだ投資していないが将来的に投資を検討している企業)でも、LPにとって有益なスタートアップであれば紹介するということですね。
浅田: そうですね、その通りです。ですので、私たちはLPのためのCVCではありません。

「起業家を支援することがVCとしての役割」独立してVCを始めた理由

ティム: では、日本における伝統的なVCとCVCについて少し話しましょう。あなたは日本でCVCの分野での長いキャリアをお持ちですよね。確か、最初にお会いしたのは伊藤忠商事にいらっしゃった頃だったと思います。 そのとき、私が自分のスタートアップに投資してもらおうとしていた気がします。
浅田: そうだったかもしれません。 伊藤忠は独立系VCでもあり、同時にCVCでもあります。ただ、伊藤忠が100%出資しているわけではなく、出資比率は20%だけで、残りの80%はIRR(投資収益率)を求める金融機関からの資金です。投資先企業には、伊藤忠グループ内の会社を顧客や販売パートナーとして紹介し事業の展開をサポートする形で支援を行っていました。
ティム: では、どうして伊藤忠を辞める決断をされたんですか? 
浅田: 伊藤忠での投資業務は、ローテーション制度の一環 でした。そのポジションにいられるのは最長でも3年間で、私は約2年半その仕事をしていました。この仕事は本当に楽しかったんです。でも、ちょうどその頃、アメリカでSalesforce Venturesのチームと出会う機会があり、そのご縁でSalesforceに移って純粋なCVCの役割を担当することになりました。Salesforceは素晴らしい組織で、戦略もしっかりしており、多くのことを学ぶことができました。ただ、いくつか課題もありました。どんな仕事にも山あり谷ありですよね。課題の一つは、Salesforceの投資プログラムが戦略的投資に特化していたことです。初期段階で投資した素晴らしい企業があっても、追加投資を行うことに制約がありました。その理由は、このプログラムの基本理念が「パートナーシップを結べば、それで目的達成」というもので、Salesforceのエコシステムに製品が統合された後は、追加投資が必ずしも必要ではなくなるからです。 私は常に新しい企業に投資することを目標にしていました。
ティム:なるほど。でも、リターンはすべて追加投資から生まれますよね。
浅田: まさにその通りです。すべてのリターンは追加投資から生まれます。そして、追加投資を行うことで起業家との信頼関係が深まるという点もあります。たとえ正当な理由があったとしても、追加投資を見送ると、市場に対して起業家に不利なシグナルを送るリスクがあります。私は、起業家を支援することがVCとしての役割だと考えているので、Salesforceを退職し、独立してVCを始めることにしました。

日本のCVCが直面する課題

ティム: 素晴らしいですね。浅田さんは、サンフランシスコと日本のエコシステムの両方でかなりの経験をお持ちですが、日本におけるCVCの役割はアメリカとは異なると思いますか?
浅田: 全く違いますね。そして、日本のCVCにはもっと戦略的な調整が必要だと思います。というのも、CVCは、親会社のバランスシートを活用して投資するわけですから、その投資は、親会社に価値を加える形で戦略的に使われるべきです。しかし、日本には独立系VCのように投資利益だけを追求しているCVCも多く見られます。それは私たち独立系VCに任せればいいのです。CVCには、強力なブランド力に加えて多くの人や企業にリーチできる力があります。その資産を活用して、株主の価値を最大化するべきです。
例を挙げましょう。CVCにはいくつかのモデルがあり、その1つとして、投資する企業の製品やサービスが、親会社の顧客に役立つものであるべきという考え方があります。例えば、Salesforce(企業)にはAppExchangeというマーケットプレイスがあり、その中に名刺管理サービスを提供するSansanという会社がありました。日本では誰もが名刺を持っています。Salesforce(CRMソフトウェア)には、Sansanがない状態では、名刺を交換するたびに、その名刺のデータを読み取って手動でSalesforceに入力しなければならず、それが非常に面倒でした。このプロセスが煩わしく、Salesforce Japanのユーザーが離れていった一因となっていました。しかし、Salesforce(企業)とSansanが製品レベルで提携すると、名刺を交換した後、Sansanでスキャンし、そのデータをSalesforce(CRMソフトウェア)にインポートするだけで済むようになり、この手間が解消され、ユーザーの離脱問題も解決されました。このため、Salesforce VenturesはSansanに投資したのです。このようなモデルが理想的だと言えるでしょう。
 ティム: その通りです。Sansanは、Salesforceにとって戦略的価値を提供するとともに、素晴らしい投資リターンももたらした優れた例です。しかし、私がよく聞く話では、多くのCVC、特に日本のCVCは、最初は戦略的価値の提供を目的としてスタートしますが、社内の連携に問題が生じたり、リターンが期待通りに高くなかったりして、最終的には戦略的価値を捨てて、財務リターンの追求にシフトすることが多いと感じています。私も浅田さんと同様に、CVCの本来の存在意義は親会社に価値をもたらすことだと考えています。

CVCにはスタートアップを本気でサポートできるような体制が必要

浅田: そうですね。そして、Salesforceはその点で素晴らしい仕事をしていると思います。私がSalesforceに投資家として採用されたとき、面接で「注目の案件を引っ張ってこられるか?」という質問を受けました。これはトップVCがよく聞く質問ですが、そうした人材が必要なのです。なぜなら、非常に低確率のスタートアップに投資して、その製品を顧客に紹介し、もしその顧客が気に入って使い始めたとしても、その会社が資金調達に失敗し、事業が倒産した場合、そのデータはどうなるのでしょうか。これは大きな評判の問題になります。だからこそ、本当に成功する見込みがあるかどうかをきちんと評価できる投資家の視点が必要です。そして、プロダクトの成熟度を理解し、支援できるビジネス開発の視点も必要です。スタートアップを本気でサポートできるような体制が必要なんです。
ティム: なるほど、日本のCVCは、アメリカのCVCに比べてより戦略的だと思いますか?
浅田: 多くの日本のCVCは、戦略的だと言いながら、実際には財務的なリターンを追い求めていることが多いです。これでは持続可能とは言えないと思います。たとえば、トヨタのような莫大な純利益を上げている大企業が、戦略性を欠いたCVC活動を行う場合、1000万ドルの利益を得たとしても、それは私にとっては大きな額ですが、トヨタにとっては何の意味もないですよね?
ティム: そうですね。それに、市場もその利益を評価しませんよね。なぜなら、それはトヨタの主力事業ではないからです。 
浅田: はい、そうです。トヨタの主力は自動車販売ですから。 
ティム: つまり、たとえ成果を出しても、誰もそれを評価しないわけですね。 
浅田: まさにその通りです。
(第三回に続く)
第三回では、日本のSaaS市場の動向や、日本における起業家やVCの変化についてお話を伺います。
[このコンテンツは、東京を拠点とするスタートアップポッドキャストDisrupting Japanとのパートナーシップにより提供されています。 ポッドキャストはDisrupting Japanのウェブサイトをご覧ください]
翻訳:藤川華子

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