J-STORIES ー 玉ねぎの皮やコーヒーの残りかすなど、そのままではごみとして捨てられるだけの食材を熱や圧力で処理し、強度の高い加工素材や建材などに再生させる。プラスチックやコンクリートに代わって「食べられる」住宅や食器も実現できる新技術が、廃棄野菜などの活用法に新しい可能性をもたらしている。
東京大学発のベンチャー企業、fabula(東京都江東区)CEOの町⽥ 紘太さんが開発、実用化した新素材「fabula」は、規格外の野菜や食品加工時に出る端材を乾燥して粉末状にし、金型で熱圧縮して出来上がる。その工程はシンプルだが、材料の種類、乾燥方法や粉末の粒の大きさなどによって、出来上がる素材の色、質感、香りなどが様々に変化し、いろいろな用途に使うことができる。
例えば、コーヒーの残りかすから作ったfabulaを使えば、コーヒーの香りが残る茶色の食器になり、紫芋のfabulaなら紫の色味がきれいなお皿に生まれ変わる。天然原料100%の素材なので、ひとつとして同じものはなく、原料となる廃棄食材の個々のストーリーを紡ぐように、それぞれに風合いが異なる⼩物や家具、建築材料などができあがる。
この技術では、どんな食材からでも強度のある素材を形成することが可能だが、最も強度が出たのは白菜だった。糖分と食物繊維のバランスがちょうど良く、コンクリートの約4倍の曲げ強度があり、厚さ5mmで30kgの荷重に耐えることができるという。
「ゴミから感動を生む」を企業ミッションに掲げる同社は2021年10月創業というまだ若いベンチャー企業で、今後、fabulaの活用法を具体的な商品としてアピールして販路を広げたい考えだ。今年7月27日から29日に長野県で「サスティナブル」(持続可能性)をテーマに開かれたイベント、「GREEN WORK HAKUBA」では、白菜とコーヒーで作ったfabulaによるカラフルな組み立て式の椅子を発表。参加者はfabulaのコースターを実際に手にとって触感や香りを体験した。
また、今年8月1日には新素材fabulaのECサイトを立ち上げた。現在は直径9センチのコースターが購入可能だが、今後はDIY用に30センチ角のプレートも販売したいとしている。
同社のCCOである大石琢⾺さんは、J-Storiesの取材に対し、「建材としては例えば災害時の避難所の仮設住宅をこの素材で建て、非常時には家を食べて食料として使うという役立て方もあるのではないか」と防災面での活用にも期待を示した。
建築資材だけでなく、原料が作られた産地や生産者に着目して地域性のあるfabulaを作るというアイデアもある。例えば産地や焙煎方法にこだわっているコーヒー店のテーブルや椅子などを、そのコーヒーの残りかすを使ったfabulaで作れば、新しいコンセプトの家具が生まれる。
大石さんは、「原料の色味や香りを生かした資材や立体的な造形を作っていきたい」とし、それを通じて、食料の生産などに関わってきた人々の想いを新しい形で届けたいと話している。
記事:澤田祐衣 編集:北松克朗
トップ写真:anontae2522 / Envato
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