自然にやさしい超吸水ポリマーが水不足の農村を救う

作物残渣だけを原料に収量アップの循環型農業を実現

3月 29, 2024
YOSHIKO OHIRA
自然にやさしい超吸水ポリマーが水不足の農村を救う
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J-STORIES ー 地球温暖化による気候変動の影響で、日本のみならず世界規模で水不足の被害が広がっている。いま、世界全人口の45パーセントにのぼる人々の暮らしが干ばつの影響を受けており、とりわけ、水と密接に関わる農業への打撃は深刻だ。
「世界中の水に困っている農家を救いたい」との思いから、水不足の解決につながる技術や製品の開発に取り組んだ研究者や企業は数多い。そうした中で、インド出身のナラヤン・ラル・ガルジャール(Narayan Lal Gurjar)さんが開発したのは、農作物を生産に使うと大きな節水効果があり、CO2(二酸化炭素)や汚水の排出はほとんどない自然由来の超吸水ポリマーだ。
水を吸収するEFポリマー     EF Polymer 提供
水を吸収するEFポリマー     EF Polymer 提供
粉末タイプのEFポリマー     EF Polymer 提供
粉末タイプのEFポリマー     EF Polymer 提供
超吸水性ポリマーは、紙おむつや生理用品、化粧品などにも広く使われる吸収剤。石油由来の他社製品が多い中、ナラヤンさんが開発した農業用のオーガニック超吸水性ポリマーはオレンジの皮などの生物残渣を原料とし、製造過程で化学物質を一切利用しない。
2020年に設立した「EF Polymer」の日本法人スタッフと中央がCEOのナラヤン・ラル・ガルジャール氏     EF Polymer 提供
2020年に設立した「EF Polymer」の日本法人スタッフと中央がCEOのナラヤン・ラル・ガルジャール氏     EF Polymer 提供
EF Polymer の超吸水性ポリマーの独自性について、広報担当の中尾享二さんは「自重の50倍の水を吸収し、6カ月間吸収と放出を繰り返し、その後は1年かけて土の中で分解され土にかえっていく。しかも、優れた吸水機能により肥料が流れ出ることなく、長期間有効性を保持できる」と説明する。
ポリマーは種にまぶしてコーティングしたり、すき込んだり、育苗ポットに追加したり、ドローンでの散布などでも使用できる。他の農業用製品との併用も可能で、土壌の微生物環境を改善、活性化させる作用があるという。
製品ラインナップは1キロ、2キロ、5キロ。     EF Polymer 提供
製品ラインナップは1キロ、2キロ、5キロ。 EF Polymer 提供
同社の実証実験によると、このポリマーを使用した結果、水の消費量を40%削減できただけでなく、水をまく労力も減り、肥料も20%少なくすることができた。さらに、トマトの尻腐れ病やパイナップルの芯腐れ病などの病気が軽減し、15%の収量増加につながった。
EFポリマーを使用した苗(写真右)と使用していない苗。比較するとその差は歴然。     EF Polymer 提供
EFポリマーを使用した苗(写真右)と使用していない苗。比較するとその差は歴然。 EF Polymer 提供
現在の販売総量は約160トン。その45%をインドとアメリカが占め、残り10%が日本で販売されている。また同社では、これまでの農業を主軸とした製品開発に加え、近年は化粧品や生活用品の開発にも力を注いでいる。
EFポリマーを使って栽培した沖縄県北大東島のサトウキビ畑。     EF Polymer 提供
EFポリマーを使って栽培した沖縄県北大東島のサトウキビ畑。 EF Polymer 提供
日本においては2023年10月、岩谷マテリアル(東京都中央区)と保冷剤を共同開発。無印良品での使用も始まっている。
中尾さんによると、「保冷剤は日本では年間約10億個が流通しているが、既存のポリマーは使用後は可燃ごみとして捨てるしかない。しかし、EFポリマーを使用した保冷剤は、不要になれば観葉植物などの土に混ぜて二次使用することができる」という。
インドの工場で製造をされるEFポリマー     EF Polymer 提供
同社は、2023年4月に5.5億円の資金調達を行い、インドの工場を拡大。月10~20トンの生産能力を今年度中に同100トンの体制に拡大する方針だ。「現在、農業用商品の製造が中心ではあるが、大手化粧品会社や日用品会社との共同開発を進めている。今後は、フランスやタイなどへの販売も強化していく」と中尾さんは話す。
インドでEFポリマーの特徴や使用メリット、使い方などを説明。     EF Polymer 提供
インドでEFポリマーの特徴や使用メリット、使い方などを説明。 EF Polymer 提供
現在使用している材料は、すべてインドのオレンジジュース工場から回収した残渣だが、中尾さんによると、今後は、オレンジの皮以外のフルーツや海藻など、使用できる材料を増やす研究を進めながら、残渣の現地調達を目指している。「材料の幅が増えると、様々な国で廃棄するしかなかったものを、有効な材料として循環させることができる」からだ。

インドで起業、先進的な設備が整う日本での研究を重ね100パーセント自然由来の製品を実現

「水不足でコーンが実らず両親や村の人々の苦労を小さい頃から見てきた」EF Polymer CEO ナラヤン・ラル・ガルジャール氏     EF Polymer 提供
「水不足でコーンが実らず両親や村の人々の苦労を小さい頃から見てきた」EF Polymer CEO ナラヤン・ラル・ガルジャール氏 EF Polymer 提供
農業を営む両親のもとに育ったナラヤンさんは、インド北西部・ラージャスターン州の人口300人ほどの小さな集落の出身だ。乾燥地帯にあり、干ばつ被害が深刻だった集落で、ナラヤンさんは「水不足でトウモロコシが実らず両親や村の人々の苦労を小さい頃から見てきた」という。
水不足対策への取り組みは、高校生の時に聞いた「科学が好きなら知識を深めて、私たち農家を助けてほしい」という父の言葉がきっかけだった。大学で農業工学を学び、自ら思いついた超吸水性ポリマーを試作、在学中の2018年にインドで EF Polymer を創業した。
オレンジの皮などを使った製品開発に使用する材料を手作業で選別する、創業当初の様子。     EF Polymer 提供
オレンジの皮などを使った製品開発に使用する材料を手作業で選別する、創業当初の様子。 EF Polymer 提供
ナラヤンさんは、 2019年に沖縄科学技術大学院大学(OIST)のスタートアップ・アクセラレータープログラムに招かれて来日。先進的な設備が整う日本での研究を重ねる中、インドでは実現できていなかった100パーセント自然由来の製品を実現。超吸水性ポリマーのトップシェアを誇る日本に自らの活動をさらに広げる可能性を見出し、2020年に日本法人を沖縄県国頭郡に設立した。
J-STORIESの取材に対し、 CEOのナラヤンさんはメールで「私たちは、短期的な目線ではなく、長期的な目線で真のソリューションを提供することを目指している。当社の製品が広く普及することで、世界で水不足に悩む農家がなくなり、持続可能な農業の実現につながると信じている」とコメントした。
記事:大平誉子 編集:北松克朗
トップ写真:EF Polymer 提供
この記事に関するお問い合わせは、 jstories@pacificbridge.jp にお寄せください。
コメント

日本を拠点に活躍するインド人起業家の方々が増えていますね。また、日本の大企業やスタートアップで働くインド人エンジニアの方々も増えています。日本企業とっては、優秀なIT人材確保、組織・ビジネスのグローバル化と英語化の促進、ハングリーな起業家魂の注入など、良い面が多々あると感じます。



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