J-STORIES ー 足腰が弱くなった高齢者の移動をサポートする福祉用具は、テクノロジーの進化に伴い電動車椅子、座って休める手押し車(シルバーカー)など多様化している。しかし、その利用にあたっては、歩行困難の状態になるまで保険の適用がされず費用負担が大きい、恥ずかしいなどの理由で、導入を躊躇する高齢者も多く、自立のサポートとして生かしきれていない現状がある。
こうした中、東京都内の喫茶店が「体力の衰えを感じた早い段階で気軽に福祉用品の利用を検討して欲しい」と、訪問者が店内で、馴染みの薄い福祉用具を実際に体験できるサービスを初め、好評を呼んでいる。
東京都荒川区に2021年にオープンした喫茶店「Mobile Care & お茶 Cafe」。この店では、複数社の電動用車椅子や、シルバーカー、多様なデザインを揃えた杖など、歩行をサポートする様々な福祉用具が展示されており、来客者は、実際に器具を試したり、購入することができる。
「福祉用具は、かなり体が動かなくなってからしか保険の認定が取れませんが、私としてはもっと早く、まだ自分で歩ける時に、器具の助けを得て外に出た方が、頭がはっきりしてくるし、体力もつくので良いと思います」と早期の福祉用具利用を訴えるのは、店主の中野真弓さんと夫婦でカフェの経営をする中野義雄さん。
中野さん夫婦は、福祉用具専門相談員の資格を持っており、カフェ来店者が興味を示した際に、利用者の状態に合った最適の用具を紹介してきた。
「一般の高齢者が、少しでも体が弱くなってきたらお店で実際に福祉用具を試してもらって、こんな良いものがあるということ気づいて欲しい」と中野さんは語る。
お店は、福祉器具の展示とともに、時間をかけて作った手作りのシフォンケーキなど無添加のスイーツが売りだ。福祉器具を買う前提ではない一般の客も含めて気軽に利用してもらう為にカフェの形式をとっている。
そもそも中野さん夫婦がお店をオープンしようと考えたきっかけは、2人が眼科の検査技師として働いていた病院で、少なくない高齢患者が治療の途中で診療に来なくなってしまったことだった。
「沢山の高齢の方が病院には来ていましたが、足が悪くなったり、体調を悪化させると来なくなりました。最初は子供に連れてきてもらっていても、子供も働いてるから悪くて、言えなくなったのか、本当は通いたいのに来なくなるという姿をずっと見てきたんですね。そういう姿を見ていて少しでも高齢者が自分で病院に行ける、買い物に行けるということが大事なのかなと思いまして、このような店を作りました。」(中野さん)
免許返還後の高齢者の移動手段として注目されている電動車椅子だが、単価がまだまだ高く、個人で購入するには負担が大きい。中野さんは将来的に政府の補助金や、自転車のように駅前などにシェア(共有)サービスが始まることを期待するが、一方でこうした費用面以外に、日本での普及に思わぬハードルがあるとも指摘する。
「利用者に聞くと、電動車椅子に乗るのは、恥ずかしいそうです。オープンカーは、アメリカの西海岸とかでは普通に走ってますけど、日本では少ないですよね。それと一緒でこれ(電動車椅子)に乗ると顔が丸見えで恥ずかしいと言うんですね。」(中野さん)
歩行を補助する杖は「持っていると足が悪いとわかってしまう」という理由で、使いたがらず、傘で代用しようとする人も多いという。逆に、さりげなく利用できるシルバーカーは、恥ずかしさの問題を気にせずに使える事が特徴だという。
「(シルバーカーは)後とか前に買い物箱がついていているんですね。あれは疲れた時に座れるようになっていますが、買い物箱のお陰で、買い物目的のように見えます。また、サイドカーという横に置けるタイプは、あまり目立たないので、人目を気にせずに使えます」(中野さん)
現時点では、このようなカフェは、この一店舗だけだが、中野さんは、いずれチェーン店のように日本全国に広がり、各地で高齢者が福祉用具が試せるようになったら素晴らしいと話す。また、現在開発中の用具を、来店者に試してもらって、開発に生かしていくというようなプランもあるという。
「日本だと屋外に出ると危ないから、ということで福祉器具といえば、ベッドなど屋内用品が中心になりがちですが、僕はやっぱり高齢者は外に出て若い人と一緒に社会生活をできるかぎりまで送っていただいた方がいいのではないかと思います。僕らのお店が何らかの形でお役に立てていれば嬉しいです」(中野さん)
記事:大河原有紗 編集:一色崇典
トップ写真:大河原有紗 撮影
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