J-STORIES ー 海に投棄された漁網などの漁具は、回収されないまま漂い続ける様子から「ゴーストギア(漁具の幽霊)」とも呼ばれる。海の生き物を脅かすプラスチックごみの多くの部分をこうした廃棄漁具が占めているとみられ、その流出量は年間年間500万トン~800万トンに達し、蓄積量は2050年までに海に住む魚の量を上回るとさえ言われている。
海洋資源の枯渇への危機感が世界的に高まる中、日本国内でもゴーストギアへの民間対応が業種を超えて広がりつつある。
2020年に発足したALLIANCE FOR THE BLUE(東京都港区、野村浩一代表理事)は、国内でもさまざまな企業をつなぎながら、海洋ゴミの削減や海洋環境への負荷を軽減するサービスの開発、商品企画、販売促進などを進めている。
同団体が手掛けた対策のひとつは、漂流・漂着ゴミだけでなく、使用されずに放置されている廃漁網を回収して活用した文具やバッグ、ランドセルなどの商品化だ。今年3月には、日本最大級のマーケットプレイスを展開するクリーマ/Creema(東京都渋谷区)と連携し、様々な手作り商品づくりを支援した。
「破棄された漁網などが自然界で完全に分解するには600年~800年かかる。その回収は大切だが、経済合理性が保ちながら、廃棄物を海に流出させない仕組みづくりが急務になっている」と代表理事の野村さんは言う。
発足以降、ALLIANCE FOR THE BLUEが手を組んだ企業はクリーマのほか、大手上場企業を含め50社を超える。
「廃漁網を回収して商品化、販売につなげるためには、その一つ一つを担う企業との連携が重要。どこか一つが欠けても実現できない。今後もより多くの企業や団体とつながりながら、品質、コスト、供給のバランスを保ちつつバリューチェーンを高めていく必要がある」と野村さんは話す。
廃漁網などを再生した商品は新しい業種にも広がっている。玄関マットやモップなどのレンタル向け商材の製造・販売を手掛けるクリヤマプリージア(本社:大阪市淀川区、西田昌弘代表取締役社長)は、国内レンタルマット業界では初となる廃漁網素材による玄関マット(商品名「リ・アース」)の製造を始め、今年5月から販売を開始する。
同社はこれまでも、トウモロコシなど植物由来の素材を使った製品化を進めてきたが、海の保全に貢献する思いも込め、廃漁網や繊維廃棄物などを回収して作られた新たなナイロン素材「ECONYL」(イタリアAquafil社が開発)に着目した。
「ファッションなど華々しい業界では早くから取り組まれていたことだが、自分たちの業界も次の世代に残していける環境づくりを考えていかないとならない。そのためには作る側もそれを利用する側も、コスト優先だけではない新しい取り組みが必要」と西田社長は話している。
記事:大平誉子 編集:北松克朗
トップ写真: ALLIANCE FOR THE BLUE提供
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