J-STORIES ー 温暖化や海洋汚染につながる石油由来のプラスチックに代わり、環境にやさしい有機素材を使用したバイオマスプラスチックの需要が高まりつつある。その原料として多く使われるサトウキビやトウモロコシではなく、廃棄される古米や破砕米などから作る独自のプラスチックを開発、コメ作りの活性化と社会貢献を共に進めている企業がある。
元商社マンの神谷雄仁さんが立ち上げたベンチャー企業、バイオマスレジンHD(東京都千代田区)。代表取締役CEOの神谷さんは食品商社に勤務していたころ、視察で訪れた米国で、穀物メジャーが次世代への新事業としてトウモロコシからプラスチックを作っていたことに感銘し、コメを原料にするプラスチック(ライスレジン)のビジネスを思いついたという。
「廃棄されるお米を活用し再生商品で社会や環境に貢献したい」という思いから、神谷さんは2007年に現在の前身となる会社を起業した。しかし、技術への評価は高かったものの、環境に配慮した製品に対する市場のニーズがまだ少なかった当初はなかなか事業が安定せず、「3年に1度は心が折れていた」と振り返る。
その後は、米作り農家やプラスチック成型メーカーなど他業種に携わる人々と積極的に連携をとり、事業を継続するためのアイデアを懸命に考えたという。
「農業従事者の高齢化が問題になる半面、農業を志す若い人たちも増えている。次世代の農業が活性化するよう、新しい農業のビジネスモデルを作りたい」と考えた神谷さんは、その一歩として米どころ新潟で2017年、バイオマスレジン南魚沼を設立。現地の廃棄米を使い、自社工場での製造をスタートした。
米の消費が減る中で、増加する休耕田や耕作放棄地を活用、原料となる工業米を栽培して地域の活性化に寄与する取り組みも始めた。福島県浪江町では米作りをスタート、昨年から現地工場も稼働している。今年は、北海道のJAひがしかわやモスファーム熊本など、全国20か所程度とビジネスパートナーとしての実施検討を進めており、3年以内に全国の休耕田などを活用した作付けを300haまで拡大する予定だという。
2021年には三井物産プラスチックとも業務提携し販路を拡大。吉野家ではライスレジンのレジ袋を一部導入、モスバーガーではフォーク、スプーンが導入されるなど、飲食店での活用事例が増えている。赤ちゃんのおもちゃやアメニティグッズなどにも使用されている。
日本政府は、脱炭素政策を進めるため、環境省などが主導して2030年までにバイオマスプラスチック約200万トンの利用をめざす計画だ。
同社はバイオマスだけでなく、微生物などの働きで最終的に二酸化炭素と水にまで分解する生分解性プラスチックにも取り組んでおり、京都大学と共同で米由来の「ネオリザ」も開発、タイ、ベトナムに拠点を設け、アジアやアフリカを中心に国際展開するという。
「ゴミ処理問題に求められる期待値が高い地域では、生分解性プラスチックが主役になる。現地で生産した米がゴミ問題解決のアプローチになることを願っている」と神谷さんは話している。
記事:嵯峨崎文香 編集:北松克朗
トップ写真:バイオマスレジンホールディングス提供
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