地雷除去の脅威と戦う小型ロボット 困難な地形でも安全に処理

紛争地の社会復興を後押し、埋設跡地の有効活用も進める

4時間前
by Kei Mizuno
地雷除去の脅威と戦う小型ロボット 困難な地形でも安全に処理
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JStories - 兵士、民間人の区別なく、子どもから大人までを無差別に殺傷する対人地雷は、その残忍さから「悪魔の兵器」とも呼ばれている。今なお、世界約60カ国で1億個以上が埋設されているといわれているが、その撤去には人命を失いかねない甚大な危険が伴う。そして、紛争が終わった後も埋設地雷は人々の安全を脅かし続け、社会や経済の復興を大きく妨げる要因となる。 
地球規模の難題とも言える対人地雷の撤去に、先進的なロボット技術を活用して取り組んでいるのが、日本のベンチャー企業、IOS(Innovative Operations Systems. Inc.、代表:今井賢太郎さん)だ。同社は、カンボジアの地雷除去活動の中心的役割を果たしている政府機関CMAC(Cambodian Mine Action Centre)と連携し、2017年から5年をかけて地雷除去ロボットDMR (Demining Robot) の開発を進めてきた。
2022年からはカンボジアでの実証実験も始まり、現在は本格導入に向けて動いている。同社は、カンボジアでのDMR実用化後、世界中の地雷埋設国・地雷除去実施組織にDMRを供給・販売していく方針で、「長期にわたり続いていく地雷除去作業を安全・かつ迅速なものに変えていく」(同社HP)ことを目標に掲げている。
「はじめてカンボジアに行った時に、実際に現場を見て、こんな危険な作業は絶対自分にはできないと思いました。だからこそ、何か自分たちにできる方法で支援出来ないかと強く思ったんです。その時の想いが、ずっとモチベーションの一つとして残っています」と今井さんは振り返る。

樹木の根を守る技術を活用、圧縮空気で地雷を露出 

IOS株式会社代表の今井さん(真ん中、カーキ色の帽子)とカンボジア地雷対策センター(CMAC)の作業員が、フィールドテストで遠隔操作の地雷除去ロボット(DMR)を操作している様子       写真提供:IOS(以下同様)
IOS株式会社代表の今井さん(真ん中、カーキ色の帽子)とカンボジア地雷対策センター(CMAC)の作業員が、フィールドテストで遠隔操作の地雷除去ロボット(DMR)を操作している様子       写真提供:IOS(以下同様)
これまで行われてきた地雷の撤去作業の方法は大きく分けて二つある。一つは地雷除去機と呼ばれる大型機械で地面を掘り起こし、地雷を爆発・破壊または無力化する方法。そして、もう一つは、大型機械を入れることが難しい山肌などの傾斜地や草木の生い茂る場所での人海 術による手作業の掘削だ。
当然のことながら、手作業の掘削は時間もかかる上に、作業員は常に大きな危険と隣り合わせでの作業を強いられる。さらに、このような方法では、地球上のすべての地雷を除去するまでに1,000年もの時間がかかるとも言われる。
広く、障害物などが少ない場所での地雷除去は、広範囲の作業を一気に処理できる大型機が効率的とされており、そうした機器の開発・導入が進んだ結果、作業スピードも上がっている。一方で大型機を入れることのできない場所では昔ながらのやり方が踏襲され、いまだに手作業に頼っている状況だ。作業の効率化も安全性の向上も課題とされながら、対策は進んでいない。
同社のDMRは、そうした困難な地形や状況下でも人力に代わって地雷を安全に除去する機器をめざしている。同社が試行錯誤の末に開発したロボットは、作業員に代わって地雷が埋設されている目標地点の掘削作業を行い、安全距離とされている場所からリモコンを使って遠隔で操作できるため、作業員の被害軽減に大きく役立つと期待されている。
DMRは、圧縮した空気で地雷を覆っている土を吹き飛ばし、本体を露出させる。通常、地雷は起爆装置が上向きに埋設されるが、時を経る中で埋設地雷の向きが変わってしまうことがある。掘削作業が突然の爆発に見舞われるなど危険が大きいのはこのためだが、DMRで地雷を露出させ、起爆装置の向きが分かれば、除去の安全性は大きく高まる。
カンボジアでの地雷原調査
カンボジアでの地雷原調査
圧縮空気による掘削技術は、近年では東日本大震災後、放射線で汚染された土の除染にも活用されたが、もともとは天然記念物の樹木などの管理や保全を手がける樹木医の間で使われていた技術だった。木の根などを痛めることなく、土の中に埋まっているものを丁寧に掘り出すことができるため、地雷の掘削作業にも応用したという。
「この技術で作業者の安全を守ることができると信じている。安全性・効率性を上げ、地雷除去のスピードが上がれば、周辺住民のリスクも減る。この機材があることで、不運な事故に巻き込まれる人が減れば嬉しい」と今井さんは言う。
今井さん、カンボジア地雷対策センター(CMAC)のスタッフによる地雷除去ロボット(DMR)の試験運用。このロボットは圧縮空気を用いて地雷原の土を安全に除去する仕組みを備えている
今井さん、カンボジア地雷対策センター(CMAC)のスタッフによる地雷除去ロボット(DMR)の試験運用。このロボットは圧縮空気を用いて地雷原の土を安全に除去する仕組みを備えている
装置の導入には、1000万円程度の費用が必要だ。ただ、いったん導入すれば数十年は使用が可能で、頻繁なメンテナンスの必要もない。
一方で、DMRを効率よく使うためには、これまで何十年も続けられてきた現場のやり方を変更する必要がある。それまで作業に関わってきた人たちと丁寧に向き合い説明し、新しいやり方への理解を得る努力が不可欠だ。そうしたコミュニケーションの改善も含め、資金面などDMRの導入と有効活用にはなお取り組むべき課題が残っている。
今井さんは、「空気圧縮技術を利用して地雷を露出させる技術はこれまでにないもので、私たちのロボットは小型で様々な土地に対応できるため、期待されていると手ごたえを感じる」と話す。そして、「多くの人が関わることで技術もビジネスも活性化していくので、もっと多くの人に興味を持って参入してきてほしい」と呼び掛けている。
手作業の地雷掘削をロボット化し効率化するという動きは始まったばかり。今後の更なるデータの収集や実績の積み上げにより、新たな道を拓くことが期待される。
地雷除去ロボットDMRの概要(日本語版)-IOS株式会社     IOS -Innovative Operations Systems. Inc.- Official You​​ Tube より

地雷原跡地にサボテンを移植、経済復興にも新しいアイデア

地雷原だった土地に新たに植えられたウチワサボテン。地雷除去後の土地を地域社会にとって有益な資源へと活用するプロジェクトの一環として実施されている     写真提供:IOS (以下同様)
地雷原だった土地に新たに植えられたウチワサボテン。地雷除去後の土地を地域社会にとって有益な資源へと活用するプロジェクトの一環として実施されている     写真提供:IOS (以下同様)
地雷問題によって開発を阻害されていた地域の経済は疲弊しており、住民の多くは危険を顧みず地雷除去作業を続けるか、その地を離れたり、出稼ぎに行って生計を立てるなどの苦労を強いられる。
そうした住民たちの生活を維持する対策として、地雷除去後の土地の有効活用が長年課題とされてきた。同社はDMRを活用して地雷を除去すると同時に、地雷原跡地の再生計画にも着手している。現在進めているのは、メキシコのウチワサボテンをカンボジアの地雷原跡地に移植するというプロジェクトだ。
サボテンの栽培技術をカンボジア農村部に普及・商業化し、地域の生活水準を向上させる事が目的で、サボテン研究の第一人者である中部大の堀部貴紀准教授を外部専門家として招いている。
「安全確保はもちろん最重要だが、地雷原跡地も有効活用して生活を支える産業まで生み出したい。ウチワサボテンはメジャーな作物ではないのでビジネスとしての難しさもあるがポテンシャルも大きい」と今井さんは言う。
今井さん(ネイビーの服、最奥)と現地スタッフ
今井さん(ネイビーの服、最奥)と現地スタッフ
ウチワサボテンは環境耐性も強く、動物の飼料や美容オイルに利用することもできる。また、サボテンには炭素固定能力があることが判明しており、栽培が温室効果ガスの削減に有効だとされる。さらに、乾燥や多雨に強く、イネやトウモロコシよりも少ない水で育てられる。
このサボテン栽培プロジェクトは、将来の食糧増産や地球規模の課題解決に貢献する可能性を秘めており、今後の農村発達の鍵を握るのではないかと期待がかかっている。
記事:水野佳 
編集:北松克朗
トップ写真: IOS 提供
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