J-STORIES ー 少子化は、先進国を中心に世界的な問題となっているが、その中でも日本は、出生数が7年で20%以上減少するなど危機的な状態が続いている。
こうした中、都心部を中心に全国約50店舗を展開する外食チェーン、スープストックトーキョー (東京都目黒区、以下スープストック)が今年4月、全店舗で離乳食の無料提供を始めた。
元々女性一人でも入りやすいファーストフードというコンセプトでスタートした同社だが、「食」を通した社会のダイバーシティー(多様性)支援するというスローガンの下、幼児連れの家族でも安心して食事を楽しめるようにと始めたものだ。
この背景には、日本国内で離乳食を提供する店はまだ少ないというだけでなく、国内の一部の外食店では離乳食の持ち込みが認められないなど、幼児連れの来店が必ずしも歓迎されているわけではないという状況がある。
ところが、こうした同社の取り組みは、多くの歓迎の声とともに、予想しなかった問題に直面した。幼児連れの来店が増え、静かに過ごしたい1人客は利用しにくくなる、などの反発が広がったからだ。特にSNS上ではトレンド入りし、ネガティブな意見が拡散されるなど、各種メディアにも「炎上」案件として取り上げられるなどの騒動となった。
スープストックがその後の声明で強調したのは、同社が力を入れている食のバリアフリープロジェクト、「Soup for all!」の重要性だった。
声明では、離乳食の無料提供について、一部の客だけを区別したり優遇したりする考えはないと理解を求めた。さらに、「さまざまな理由で食べることへの制約があったり、自由な食事がままならないという方々の助けになれればと、『Soup for all!』という食のバリアフリーの取り組みを推進していく」との姿勢を明確にした。
同社PR室はJ-Storiesの取材に対し、「離乳食の無料提供は、小さなお子様連れという理由で外食店での飲食をためらう人たちのために始めた」と説明。「Soup for all!」の趣旨にそったサービスで、批判的な反響は予想していなかった、と話した。
「一杯のスープを通して人々の心の体温をあげていきたい」、「個性をすり減らすことなく、生き生きと暮らしてほしい」―。同社にはこうした経営理念があり、食べることへの壁(バリア)をなくそうという「Soup for all!」は、その実現をめざす重要な取り組みだ。
離乳食を無料提供するサービスは同社が初めてではない。これまでにも、たとえばイケア・ジャパン(千葉県船橋市)などで会員向けに市販品を提供するサービスとして行われてきたが、スープストックでは自社で作り上げたオリジナルの離乳食を用意している。
同社が展開するファミリーレストラン「100本のスプーン」では、すでに2015年からこうした無料提供を開始。2020年には、スープストックの一部店舗でレトルト商品「あかちゃんがなんどもおかわりしたくなる離乳食」の有料販売を開始した経緯もある。
「Soup for all!」プロジェクトでは現在、グルテンフリー、ベジタリアン対応などを行っており、立川店では高齢者向けの咀嚼配慮食サービスもスタートした。過去には、ハラル商品の開発やコロナ禍で医療従事者への食の無償提供も行っており、今後は「今後は病院食や介護職、減塩食などについての開発も進めていく予定」(同社PR室)だ。
2022年には「スープを食べることで誰かのAlly(アライ=味方、理解者の意)になる」というキャンペーン「アライデイズ(Ally Days)」を開催、売り上げの一部をLGBTQの子どもや若者の課題に取り組む認定NPO法人 ReBitに寄付している。
同社ではこうしたダイバーシティ支援の取り組みを全店で行うかたわら、それぞれの店舗では「たとえば就職活動中のお客様に応援のひと言を添えたり、マタニティマークをつけたお客様に白湯を差し出したりというように、企業理念に共感した各人が自発的にアクションを起こしている」(同社PR室)という。
「スープという食事は0歳~100歳まで、性別や国籍、文化を超えて愛されて生きている料理。創業当時から全ての方に向けたブランドでありたい」(同社PR室)。同社では各店舗で、世界各地にルーツのある様々なレシピをアレンジしたスープを常時8~15種類提供している。
同社は駅近くの店舗が多いため、海外からの観光客も利用しやすい。年齢や国籍を超えた人々が集まって様々な角度から食の多様性を考える場になるかもしれない。
記事:嵯峨崎文香 編集:北松克朗
トップ写真:スープストックトーキョー 提供
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