日本製の木造人工衛星が宇宙空間に放出

世界初の木造人工衛星、宇宙空間でも安定。地上への交信への試み続く

1月 10, 2025
BY TAKANORI ISSHIKI AND YOSHIKO OHIRA
日本製の木造人工衛星が宇宙空間に放出
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この記事は2024年10月に書かれたこちらの記事のアップデートです。
J-STORIES ー 京都大学(京都市左京区)と住友林業(東京都千代田区)は、2024年12月に「宇宙木材プロジェクト」で作成した一辺10センチほどの小型木造衛星をISS(国際宇宙ステーション)の「きぼう」日本実験棟から宇宙空間に世界で初めて放出することに成功した。
「きぼう」から放出される「LignoSat」(京都大学/住友林業株式会社)等の小型人工衛星    提供:JAXA/NASA (以下同様)
「きぼう」から放出される「LignoSat」(京都大学/住友林業株式会社)等の小型人工衛星    提供:JAXA/NASA (以下同様)
京都大学(京都市左京区)によれば、宇宙空間に放出された人工衛星は、その後、地球の軌道を周回しており、今後三ヶ月程度運用を続ける予定だという。
真ん中に見えるのがの木造人工衛星「LignoSat」(京都大学/住友林業株式会社)
真ん中に見えるのがの木造人工衛星「LignoSat」(京都大学/住友林業株式会社)
また、木造衛星の強度を担う構体は、宇宙空間においても安定しており、開発を主導した元宇宙飛行士で京都大学大学院・特定教授の土井隆雄さんは、今回木造衛星が宇宙で形を保ったことで「宇宙でも木材を(素材として)使用できることが証明された」とJSTORIESの取材に対して喜びのコメントを寄せている。
「きぼう」から放出される「LignoSat」(京都大学/住友林業株式会社)等の小型人工衛星
「きぼう」から放出される「LignoSat」(京都大学/住友林業株式会社)等の小型人工衛星
受信をするために集まった京都大学の学生チーム 京都大学 提供 (以下同様)
受信をするために集まった京都大学の学生チーム 京都大学 提供 (以下同様)
一方で、放出後は木造構体のひずみ、内部温度分布、地磁気、ソフトエラーを測定し、京都大学構内に設置された通信局にデータが送信される計画だったが、衛星からの電波は2024年1月10日時点で受信できていない。京都大学はその原因について、いくつかの理由が考えられるものの、何らかの理由で電源が入っていない可能性が考えられるとしており、今後、木材の衝撃により、途中で電源がオンになる可能性も踏まえ、大学の学生チームが通信室につめて衛星との交信を最後まで試みるという。
京都大学では今回の木造人工衛星の2倍の体積をもつ第2号機の開発を既に開始しており、2027-8年に打ち上げる予定としている。
今回の木造人工衛星の2倍の体積をもつ第2号機のイメージ
今回の木造人工衛星の2倍の体積をもつ第2号機のイメージ
大きな可能性を持つ宇宙ビジネスの開発競争が激化する中、宇宙空間には役割を終えて漂うロケットなどのスペースデブリ(宇宙ゴミ)が急増しており、放置すれば、衛星同士の衝突や大気圏突入時の環境汚染を深刻化させかねない。
将来の開発の足かせとなるスペースデブリに取り組むため、日本が進めている解決策のひとつが「木造」の人工衛星だ。スペースデブリを処分するには、大気圏に再突入させて燃焼させる必要がある。しかし、これまでの人工衛星はアルミや鉄で作られているため、大気圏で金属が燃え残り、環境汚染や異常気象を引き起こす危険性も指摘されている。木造であれば、こうしたリスクは大幅に軽減できる。
完成した木造人工衛星(LignoSat)フライトモデル(打ち上げ実機)
完成した木造人工衛星(LignoSat)フライトモデル(打ち上げ実機)
今回宇宙空間に放出された木造人工衛星は、1辺が100mm角のキューブサットと呼ばれる超小型の衛星で、2024年5月末に4年の歳月をかけて完成、6月にJAXAに引き渡された。その後、NASAやJAXAによる数々の厳しい安全審査を無事通過し、世界で初めて宇宙での木材活用が公式に認められた。
人工衛星はスペースX社のファルコン9ロケットに搭載され、米国フロリダ州のケネディ宇宙センターから宇宙空間に打ち上げられISS(国際宇宙ステーション)に移送され、12月に「きぼう」日本実験棟より宇宙空間に放出された。
試行錯誤しながらも完成に近づきつつある木造パネルを使った人工衛星講体
試行錯誤しながらも完成に近づきつつある木造パネルを使った人工衛星講体
木材には電磁波を通す性質があり、通常の衛星では外に据え付けるアンテナを内部に収納できる。衛星の構造が単純になり、故障リスクの低減にもつながる。また宇宙空間では水分や酸素、バクテリアが存在しないので、燃えたり、腐ることもない。
しかし、国際宇宙ステーションの表面の温度は、太陽の光が当たっていると摂氏100℃以上、当たっていないとマイナス100℃以下になってしまうという激しい温度変化があり、強力な宇宙線や紫外線も飛び交う。そうした極限の環境下で木材が衛星の安全を確保できるかどうかがプロジェクトの大きなカギとなっている。
内閣府によると2022年に軌道上に打ち上げられた人工衛星等の機数は世界全体で2,368機と過去最大になった。この10年間で11倍という急増ぶりで、スペースデブリへの対策も一段と緊急性を増しているといえる。
アップデート:一色崇典
記事:大平誉子 編集:北松克朗
トップ写真:京都大学・住友林業提供
この記事に関するお問い合わせは、jstories@pacificbridge.jp にお寄せください。

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本記事の英語版は、こちらからご覧になれます。
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