J-STORIES ー 電動車いすを、身障者や高齢者などだけでなく、誰もが利用できる近距離移動のインフラとして活用しようという取り組みが広がっている。
電動車いすによる新しいモビリティシステムに取り組んでいるのは、ベンチャー企業のWHILL(東京都品川区)。2012年に創業した同社は、「すべての人の移動を楽しくスマートにする」を企業ミッションに掲げ、電動車いすを福祉用具ではなく、パーソナルモビリティの手段と位置付けて操作性や快適さの改善に取り組んできた。
同社の電動車いすは、手元のコントローラーでアクセル、ブレーキ、方向転換を操作する。時速6キロで動き、約5センチの段差を安全に乗り越えることができる。 最高時速が遅いため、道路交通法では「歩行者」の扱いになり、運転免許を必要としない。
洗練されたデザインや様々な色を選べるアームカバーなども、一般的な車いすにはない特色だ。すでにトヨタ自動車や本田技研工業のディーラーでも免許を返納した高齢者などの移動手段として販売する動きもある。
現在、同社では通常の電動車いすモデルである「WHILL Model C2」に加え、折りたたみ式の「WHILL Model F」、主に屋外での走行を想定して、自転車のような感覚で乗ることのできるスクータータイプ「WHILL Model S」の3種類が発売されている。
同社では、電動車いすを使った自動運転サービスも行っている。羽田空港では同社の電動車いすを自動運転でつなぐ新しい移動サービスが2021年6月14日から第1ターミナルで、7月半ばには第2ターミナル全域、23年12月には第3ターミナルでも始まった。このシステムは、利用者がWHILLの車いすに乗り、タッチパネルに入力をすると、指定した目的地まで自動運転で移動ができるという仕組みだ。
2022年12月にはカナダのウィニペグ国際空港で、海外初となる自動運転のサービスを開始、2024年3月末からは、米・ロサンゼルス国際空港とマイアミ国際空港でも同サービスを始めるなど、国内外の空港で自動運転のサービス拡大を目指している。
一方、同社は、横浜のみなとみらいや長崎のハウステンボス、麻布台ヒルズ、東京ドームシティなどの観光地でも、域内の移動手段として電動車いすの貸し出しを行っている。
また同社は2024年3月には旅行会社のJTBグループと、同年5月には訪日観光客向けにオーダーメイドのツアーを手掛けるTokudAw社との協業を行い、観光地でのWHILLの車いすのレンタルサービスをスタートすることが発表された。今回のレンタルでは折りたたみが可能な「WHILL Model F」が採用され、観光地で車を降りた後の、第二の移動手段として使用できる。
同社は2022年5月、トヨタ自動車の子会社であるWoven Planet Groupの投資部門、Woven Capital社からの資金調達で合意した。Woven Planetは自動運転をはじめとしたトヨタの次世代モビリティ社会への取り組みを担っており、Woven Capitalはそのグローバル投資ファンドとして、モビリティ分野の革新的企業に投資を行っている。
Woven Capitalが日本企業に投資するのは今回が初めて。WHILLは調達資金を「生産体制のグローバル拡大やビジネスのサービス事業に重点を置いたリソース強化」に投じる方針だ。
WHILLの広報 新免那月さんは、J-Storiesの取材に対し、今回の資金調達を通して、Woven Planet の持つ豊富なつながりと知見を活かし、事業の成長を目指していきたいと説明。
また、電動車いす製品の展開については、「車いすはテクノロジー面で改善されているが、そのデザインは100年以上変わっていない。(デザインが変わらない中で)車いすを使う人イコール 歩けない人という概念が根付いている」と指摘。「電動車いすのデザインを改良し、誰もが乗りたくなる・自信を取り戻すきっかけにしたい」と話している。
記事:高畑依実 編集:北松克朗
アップデート記事:肱黒勇正 アップデート編集:一色崇典
トップページ写真: WHILL 提供
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