「自分だけの車いす」で生活の質向上

一人ひとりに最適な乗り心地を実現

12月 8, 2022
by Yoshiko Ohira
「自分だけの車いす」で生活の質向上
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J-STORIES ー 身体に合わない車いすは使いにくいだけでなく、長い間に利用者の姿勢が崩れ、健康悪化や認知機能の低下なども招きかねない。そのリスクを減らし、生活の質を高めるには、利用者の体格や身体機能、障害の程度などに合わせ、シーティングを最適化した「自分だけの車いす」が必要になる。
そうした思いから車いすの改善に取り組んでいるのが、モータースポーツや医療・福祉機器、最先端ロボットなどを手掛けているRDS(本社:東京都渋谷区、杉原行里代表取締役社長)だ。
車いす陸上やチェアスキーなどのパラスポーツギアを手掛けてきた同社は、これまでの知見を活かし、一般の車いすユーザーがシーティングを調整して最も快適な乗り心地を実現できる新製品を開発。今年10月、東京国際展示場(東京都江東区)で開かれた国際福祉機器展に出品した。
&nbsp;一般のユーザー向けに最適のシーティングを設計するシミュレーター(左上)、特別デザインの手動車いす(右)と歩行解析ロボット。 RDS 提供<br>
 一般のユーザー向けに最適のシーティングを設計するシミュレーター(左上)、特別デザインの手動車いす(右)と歩行解析ロボット。 RDS 提供
そのひとつは、シーティングのシミュレーターの「bespo」。車いすユーザーが実際に座席に座り、座面や車輪の位置を電動で調整しながら、座り心地や漕ぎやすさをチェックする。同時に各種のセンサーがそのシーティングを定量的に評価し、データとして記録する。ユーザーが介助者なしで最適のシーティングを調整できる。
また、同時に出品された「MIGRA」は、「bespo」で導き出されたパーソナルデータを元に、実際のフィット感を確認できる特別なデザインの手動の車いすで、座角、バックレスト角度、フレーム長を変更、シーティングを様々に変更できる。障害の程度に合わせて、各部位の同時設定が可能だ。
同社では現在、これらの機器を使い、一般ユーザーを対象にしたベースモデルを構築するための実証実験を行っている。
同社は身体データをテーマにした製品開発を進めており、同展示会には「歩行」を解析する新型ロボットも出品した。歩行の状態は認知症や脳卒中、関節疾患、骨折・転倒などと密接にかかわっており、症状が進行すると様々な兆候が現れる。このロボットは、歩行の分析データを病気の早期発見につなげるという「バイオマーカー」として活用できるという。
糖尿病や認知症の患者には小さい歩幅で足を持ち上げず歩くという特徴があり、歩行解析ロボットはそうした病気の兆候をとらえることができる。 RDS 提供<br>
糖尿病や認知症の患者には小さい歩幅で足を持ち上げず歩くという特徴があり、歩行解析ロボットはそうした病気の兆候をとらえることができる。 RDS 提供
同社がこうした医療福祉機器に力を入れるようになった背景には、代表の杉原さんがプロダクトデザイナーだった亡き父と共有した「使う人の立場に立ったデザイン」へのこだわりがあるという。
2008年にRDSに入社した後、杉原さんは「自分に合う松葉杖を作って欲しい」という顧客からの要望に応えて、従来の約3分の1の重さのドライカーボン製の松葉杖を製作した。
「松葉杖の多くはレンタルユーザーを想定してあり、一生涯使わなくてはならない人にとっては、満足するプロダクトがあまり出回っていない」。
株式会社RDSの杉原行里代表。 RDS提供<br>
株式会社RDSの杉原行里代表。 RDS提供
利用者の使いやすさを優先する姿勢は、新しい車いすの開発にも共通している。車いすユーザーは体格や抱える障害、リハビリの進捗状況、生活スタイルなどそれぞれ個性があり、車いすがユーザーに合わせて調整されているかどうかで日常生活の質に大きな違いが出るからだ。
杉原さんは、高齢化先進国である日本で生まれた医療福祉機器や技術は今後、同様に高齢化が進む世界各地に広がっていくと予想。「その中でも身体データは有益なプロダクトの開発につながる可能性が高く、社会的課題を解決する鍵になるはずだ」と話している。
記事:大平誉子 編集:北松克朗
トップ写真:gaysorn1442/Envato
この記事に関するお問い合わせは、jstories@pacificbridge.jp にお寄せください。

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