J-STORIES ー 家族同然にかけがえのない存在になっているペットたちの健康をどのように守っていくか。こんな悩みに応え、犬や猫などの顔写真から病気になるリスクを早期に察知できるAI(人工知能)搭載の予測システムが日本企業の手で開発されている。
ペットの顔写真による「疾病予測システム」の開発を進めているのは、アニコムホールディングス(東京都新宿区、小森伸昭代表取締役)。AIを使った動物の疾病予測としては、世界初となる特許を取得。今後1〜2年での実用化を目指している。
同社はこれまでも、AIを活用して、ペット保険を取り扱うグループ企業であるアニコム損害保険の保険請求データを分析し、ペットの品種によるかかりやすい疾病などの情報を発信するほか、ペットの便から腸内フローラの測定を行い、特定の疾病リスクを判定するなどの予防型のサービスに力を注いできた。



同社では、100万件を超えるペット保険の契約があり、このうち約7〜8割が犬の契約で、契約更新ごとに犬や猫の新たな顔写真がデータとして蓄積されていく。
「この膨大な顔写真と保険請求で分かる疾病のデータを、ペットの健康づくりに活用できないかと考えた」と、アニコム損害保険の商品サービス部・R&D部担当執行役員の堀江亮(Horie Ryo)さんは開発の経緯を語る。
「疾病予測システム」は、この膨大なペットの顔写真と保険請求に用いる疾病データを紐づけてAI解析を行い、顔写真から読み取れる小さな変化を病気の早期発見、治療に結びつける。

現在、システムの対象として想定しているのは犬と猫。皮膚疾患と目や耳の疾患が推測できるという。システムに顔写真をアップロードすると、目や耳など、顔のどの部分に疾患のリスクがあるかを知ることができる。トイプードルの顔写真を用いて、1年以内の眼科疾患の発症予測実験を行ったところ、約70%の精度で特定の疾病リスクを判定したという。
堀江さんは、「飼い主がアップする画像にもよるが、高い精度で予測が可能。開発しているシステムは顔写真を用いたものだが、今後体の他の部位や歩き方などの動画などもデータとして蓄積していけば、他の疾病リスクも早期に予測できるようになるはず」と語る。

平均年齢が14〜15歳という犬や猫の病気が増えてくるのは8歳以降。同社の調査によると、8歳前後から飼い主が負担する医療費が跳ね上がり、年間10万円を超えていることが分かる。病気になる前に飼い主が病気の兆候に気付くことができれば、ペットの体力的な負担を軽減できるだけでなく、飼い主の経済的な負担も軽減する。

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「アニコム損保の保険加入者の利用に加え、動物病院や動物イベントなどでの活用も含め、現在検討しているところ」という。
新システムを使ったサービスでは、疾病リスクの予測だけでなく、ペットフード情報やペットの生活習慣など、病気の予防につながる情報も合わせて提供していく考えだ。
現在進めているのは、ペットが健康な生活を送るための顔写真を使った疾病予測システムだが、堀江さんは「後々、このシステムが人間にも広がっていけば、病気の予防において、より大きな世界が見えてくる」という将来像も描いている。
記事:大平誉子 編集:北松克朗
トップ写真:アニコムホールディングス 提供
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