J-STORIES ー 半世紀以上前に日本が生み出した画期的な技術「光触媒」を使い、地球の水の浄化に取り組んでいるスタートアップ企業がある。大手電機シャープ出身の日本人技術者8人が2018年に創業したカルテック(Kaltech, 大阪市中央区)だ。「光触媒で地球をキレイにする」を企業理念とする同社の事業は、光触媒技術を利用した世界初の美容加湿器を発売するなど大きく広がりつつある。
光触媒技術は、光を当てることでウイルスや有害物質を酸化分解して無害化する。社長の染井潤一さんはシャープ在籍中、スリランカでLED防虫ランプの実証実験に関わっていた際、農薬が混入した井戸水を飲んで命を落とす子供を見て衝撃を受けたという。高専、大学時代に研究していた光触媒技術を使えば、その命を救えるのではないかという思いから起業を決意、同僚エンジニアたちに声をかけて同社を創業した。
2019年にはまず、壁掛けタイプの空気清浄機をリリース。この製品は2020年に理化学研究所、日本大学医学部との共同研究によって「光触媒による新型コロナウイルスへの有効性」が実証されて話題を呼んだ。
その技術をさらに高め、水中に含まれる細菌の発生を光触媒で抑制できることを東京大学との共同研究によって実証、昨年12月、光触媒技術を利用した世界初の美容加湿器「Yuragi潤水(ゆらぎじゅんすい)プルミエール」をリリースした。専用カートリッジで純度の高い軟水を生成、光触媒技術によって菌やカビを抑制し続けるため、運転状態であれば毎日のメンテナンスが不要になる。この製品は2023年1月にはラスベガスで行われた電子機器の世界最大のテクノロジー見本市であるCES2023でも発表され、世界的にも注目を集めた。
同社はこの技術を、さらに大規模に応用する事業も進めている。たとえば、エビや魚などの水産物を陸上の設備で行う陸上養殖場水槽は、汚れた水を川や海に排出する際の環境負荷が高い。光触媒で浄化すれば常に水を清潔、安全に保つことができるとし、実証実験に着手した。
一方、染井社長はスリランカのような途上国の水問題にも、すでに取り組みはじめている。水の衛生設備には様々な方法が考えられるが、「光触媒は太陽光を使うためにランニングコストも低く、継続的に安全な水を作ることができるため、世界中のどの地域でも応用しやすい」(染井社長)のがメリットだ。
浄化の仕組みをわかりやすく言えば、光触媒をコーティングした素材、たとえば石などを水中に投入、光を当てるだけというシンプルな方法だ。屋外であれば、太陽光が届く限り浄化され続けることになる。
途上国に限らず、これを応用すれば身の回りのどんな水も手軽に浄化することができる。「たとえば身近なところでは、冬になると藻が浮く学校のプールや皇居のお濠の水を透明にしたいというのも果てしなく広がる私の夢のひとつ」と染井社長は語る。
その先には、社会課題解決の新たなミッションとして、光触媒による水素発生という構想もあり、京都大学との共同研究も進めている。「水、空気、食を安全にすることのできる光触媒は、人類が生きて行くために非常に有益な技術。この技術でさまざまな世界の環境問題、社会問題解決に貢献したい」と染井社長はJ-Storiesの取材に対して語っている。
記事:嵯峨崎文香 編集:北松克朗
トップページ写真:カルテック 提供
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