JSTORIES ー 日本の新鮮なネタを握った寿司が、鮮度を失うことなく海を越え、米国や欧州などの食通たちをうならせる―。日本の高度な食品冷凍技術が、かつては不可能と思われた新しい食の世界を広げつつある。その進化は食品の風味や鮮度の維持にとどまらず、フードロスの解消など社会的な課題への解決にも貢献している。
そうした冷凍革命の最前線を走る企業の一つが、2013年に創業したデイブレイク(本社:東京・品川、木下昌之代表取締役)だ。同社は独自開発した冷凍技術を活用し、冷凍機の販売、顧客へのコンサルティング、食品流通の改善支援など多角的な事業展開を続けている。
デイブレイクの独自技術である「マイクロウインドシステム」は、長く使われてきた空気冷凍(エアーブラスト冷凍)法を新たな段階へ進化させた。従来の冷凍庫は一方向から冷たい強風を当てるため、食品が乾燥しやすく、内部に氷の結晶が形成される。そのため、冷凍した寿司を解凍するとシャリは硬く、水っぽくなって本来の食感が失われ、刺身の繊細な風味や鮮度も損なわれてしまう。

マイクロウインドシステムを搭載した同社の冷凍機「アートロックフリーザー」は風の強さ、温度、湿度を多方向から制御しながら冷凍し、乾燥や硬化、変色、品質の劣化を防ぐ。解凍後も食材本来の水分と食感を維持できるので、寿司のような繊細な食材でも新鮮な風味を犠牲にすることなく長期保存が可能になった。
「従来の技術で冷凍した寿司は、解凍すると握りたての新鮮な寿司とはかけ離れ、乾燥して壊れやすく、シャリの食感も悪く、魚も硬く、水っぽい。正直、満足できる品質ではなかった」。J-STORIESの取材に応じたデイブレイクの取締役CSOである片山良宏さんはそう話し、「私たちが目指すのは、この常識を覆すこと」と明言する。
同社の冷凍機は寿司ネタとシャリを一緒に冷凍でき、解凍した寿司は握りたてのようなしっとりとした食感を維持している。
東京で行われた試食イベントで同社の冷凍寿司を食べたJ-STORIES編集部のAnita De Micheleも、「日本に来て以来、いろいろなところで寿司を食べてきたが、(同社の冷凍寿司は)新鮮な寿司と区別がつかないほど美味しかった」と感想を述べた。

デイブレイクは、グローバル展開の一環として、米国やアジアの小売業者、ホテルと連携し、高品質な冷凍寿司の市場導入を進めている。
米国中西部や中央ヨーロッパなど海に面していない地域にも、同社の技術で本格的な冷凍寿司を届けることが可能になった。「日本では新鮮な寿司を手軽に食べられるが、米国やヨーロッパでは、高品質な寿司を安定して提供するのは難しい。私たちの技術によって、日本の本格的な寿司を海外市場へ届けられると考えている」と片山さんは語る。

最も冷凍が難しいと言われていた寿司の保存だけではなく、同社は独自の冷凍技術を肉や野菜など他のさまざまな食品にも応用している。難題は食品ごとに適した冷凍プロセスがあることで、寿司、ラーメン、肉など、それぞれに求められる条件が異なる。片山さんは「冷凍というと簡単そうに聞こえるが、実際には非常に高度な技術であり、そこに私たちの強みがある」と自信をみせた。
同社の技術はすでに一流の料理店でも利用が広がっており、ミシュランガイド東京で2023年と24年に2年連続の「ビブグルマン(高品質な料理を比較的手頃な価格で楽しめる店)」に選ばれたレストラン「CRAZY PIZZA」 では、アートロックフリーザーを導入してオンライン販売を開始、利用者に出来たてのような味わいを提供できるようになったという。
さらに同社には、冷凍技術を活用し、世界で深刻化しているフードロスの削減につなげたいとの思いもある。国連環境計画(UNEP)によると、世界では毎日10億食以上の食品が廃棄されている。片山さんは「食品の味や食感を損なわずに冷凍保存することで、保管や輸送を容易にし、食品ロスの削減に貢献できる」と説明する。
フードロスへの取り組みは、デイブレイクを創業した木下昌之さんの体験が 背景にある。木下さんは南アジアを訪れた際、膨大な食品廃棄の実態を目の当たりにし、衝撃を受けた。まだ食べられるはずの食品が大量に捨てられている現状を知り、持続可能性への考え方が大きく変わったという。
「品質を損なわずに食品を保存する方法があるはずだ」と考えた木下さんは、より持続可能な食品のエコシステムを実現するため、新世代の冷凍技術の開発に乗り出した。

廃棄が減れば、その分、食材にかかるコストも抑えられる。結果として、飲食業界全体の運営コストも削減される。「食材ロスが減ることで、飲食店や食品メーカーは無駄な支出を抑えつつ、高品質な食品を安定して確保できる」とCSOの片山さんは語る。
同社は飲食店や食品メーカー、卸売・小売といった幅広い食品関連事業者を対象に最適な冷凍方法を確立するためのコンサルティングにも力を入れている。テーマとなるのは冷凍プロセスの最適化、食材の選定、品質を維持するための包装技術など。片山さんは「食品生産者が冷凍技術を習得し、世界市場で販売戦略を構築できる場を提供したい」と話している。
記事:北松克朗
トップ写真:J-STORIES
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