J-STORIES ー 深刻な貧困問題を抱えるフィリピン農村を支援するため、コーヒーの廃材を使って個性的なシロップを生産販売し、現地の人々に新たな収益源を提供しようという事業が日本企業によって進められている。
フィリピンはコーヒーの世界三大原種である希少な「リベリカ種」の産地だが、国際競争の激化や病害、外資の進出などで、同国内の生産量は減少の一途をたどり、貧困拡大の一因となっている。コーヒーの廃材を使った新ビジネスには、農村の人々に新しい収益源を提供すると同時に、コーヒー生産者としての自信と誇りを取り戻してもらいたいとの思いも込められているという。
この事業を手掛けているのは、不動産情報サービスを中心とするLIFULL(ライフル)(東京都千代田区、井上高志代表取締役社長)。同社は社会貢献型ビジネスにも力を入れており、廃棄される間伐材や放置されている竹林などを食材として活用、新たな価値づくりをめざすプロジェクト「地球料理₋Earth Cuisine-」を推進してきた。
暮らしに欠かせない「食」を通じて、より良い社会を実現しようというのが、同プロジェクトの目的だ。奥多摩の森の中で、間伐材を使った料理を提供する「一夜限り」のレストランを開く一方、杉のパウダーを使用したパウンドケーキ、放置竹林の竹を利用した和菓子、竹と笹を使ったガレット、カカオの廃材(豆の殻、枝、葉)を使ったチョコレートなど、毎年新たな商品を生み出してきた。
今年9月、同社は新たな取り組みとして、フィリピンでコーヒー廃材活用事業を立ち上げた。使用するのは、フィリピン国民に愛されてきたリベリカ種の廃材。著名なバリスタである井崎英典さんと手を組み、廃棄されてきたリベリカ種の花や葉、枝、カスカラ(果実の皮と果肉)をそれぞれ使い、個性ある4種類のコーヒーシロップを共同開発した。
シロップは、一般向けの小売りはせず、企業が購入するほか、コーヒーチェーンなどがシロップを使ったメニューを開発し、顧客に提供する。これにより、フィリピンのコーヒー農家の収入増加が期待できるだけでなく、約82万本分のコーヒーの廃材を活用することで約640万ドルの経済効果が生まれる、と同社では予想している。
同社広報の野尻翔子さんは、サステナブル(持続可能)な社会をめざすプロジェクトを進めるうえで「重要なことは共感を生むこと」とし、コーヒー廃材プロジェクトを草の根で広め、新たな人たちを巻き込みんでいきたいと話している。
記事:大平誉子 編集:北松克朗
トップページ写真:spamas/Envato
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