「誰も切り捨てないファッション」に国際的な評価

障害者らを衣服の制約から解放

6月 30, 2022
by yui sawada
「誰も切り捨てないファッション」に国際的な評価
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J-STORIES ー 様々に異なる人々、社会、自然環境の違いや多様性を尊重し、すべてが共生できる「オール・インクルーシブ」な経済圏をファッションビジネスで実現する。こうした取り組みを続けている日本企業が、創業2年弱で国際的なデザイン賞などを相次いで獲得、内外で評価を高めている。
同社が販売しているシャツのボタンは手が不自由な方でもストレスなく取り外しができるようにマグネットで作られている。     SOLIT 提供
同社が販売しているシャツのボタンは手が不自由な方でもストレスなく取り外しができるようにマグネットで作られている。     SOLIT 提供
この会社は社会起業家の田中美咲さんが2020年8月に立ち上げたSOLIT(東京都・渋谷区)。同社が展開しているセミ・オーダー型ファッションサービス「SOLIT!」では、合わせて1600種類を超すサイズ、デザイン、パーツを用意し、顧客がそれらを組み合わせて自分の希望や必要性に合った服を作ることができる。
同社がめざすのは、身体の障害や特別な体型、セクシャリティーなどの制約で自由に服が選べない人たちに、気兼ねなく楽しめるファッションを提供することだ。商品開発には服飾デザイナーだけでなく、医師や理学療法士などが企画段階から参加、障害者のアドバイスも取り入れるなど、「全当事者」が協力する体制をとっている。
田中さんは東日本大震災をきっかけに防災の啓発活動を行う会社を立ち上げたことがあるほか、社会課題の解決を目的とした企業や団体の事業コンサルティング会社も設立している。     SOLIT 提供
田中さんは東日本大震災をきっかけに防災の啓発活動を行う会社を立ち上げたことがあるほか、社会課題の解決を目的とした企業や団体の事業コンサルティング会社も設立している。     SOLIT 提供
商品設計に必要なデータは病院や研究所と連携して収集。SNSを通じて洋服に悩みを抱える人たちから意見を集める。さらに、製品を試着してもらって着脱にかかる時間も確認する。
昨年5月、同社は大阪にある岸和田リハビリテーション病院において、同病院、調査・研究の設計やデータ分析を行ったSDX研究所(同病院の関連企業)との共同プロジェクトに着手した。入院患者に疾患や病態、環境などに左右されない入院着ファッションを楽しんでもらうことが目標だ。
つらくなりがちな入院生活に多様性を吹き込んで、少しでも患者の幸福感を高めようという狙いがある。同社は今年4月に200着の入院着を納品、今後さらに患者でのファッションニーズの把握や病院に必要な新しい衣服やサービスの開発を進める。
ブランド名のSOLIT!英語のスラングで「とても素敵」という意味。一人一人を既存の型にはめるのではなく、そのままで素晴らしいという思いが込められている。    SOLIT 提供
ブランド名のSOLIT!英語のスラングで「とても素敵」という意味。一人一人を既存の型にはめるのではなく、そのままで素晴らしいという思いが込められている。    SOLIT 提供
こうした事業展開が評価され、同社は今年4月、世界3大デザイン賞のひとつである「iF DESIGN AWARD 2022(独)」の最優秀賞を獲得した。「障害者を健常者向けの衣服の制約から解放」したことなどが受賞理由だ。
これに先立ち、SOLITは「手ごろな価格ですべての人のためのファッション」を提供している点などが評価され、2021年のIAUD国際ユニバーサルデザイン賞銀賞(ファッションデザイン部門)を受賞。岸和田の病院プロジェクトは、循環型経済の実践を表彰する「crQlr Awards」にも選ばれた。
SOLITは会社の資本政策でも、多様性を重視する手法を取り入れている。昨年の資金調達では株主を会社の所有者ではなく、資本面で貢献する一員と定義した。株主は議決権が制約されるが、他の多くのステークホルダーとの一体性を強化し、会社全体の株式価値を向上につながれば、そのリターンを手にできるという考え方だ。
同社CEOの田中さんは、ファッションビジネスをオール・インクルーシブな社会を実現するうえでの最初の一歩と位置付けている。 
「(現状を)早く変えられるということでファッションからスタートしたものの、ファッションだけ変わっても仕方がない」と田中さんはJ-Storiesとのインタビューで話した。今後はファッション事業で得た知見やデータ、人脈などを生かし、文具や家具、家電の分野でもオール・インクルーシブなサービスを進めたいとしている。
記事:澤田祐衣 編集:北松克朗 
トップ写真:Rawpixel / Envato
この記事に関するお問い合わせは、 jstories@pacificbridge.jp にお寄せください。

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上記の記事の内容は、動画リポート(英語)でもお伝えしています。

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本記事の英語版は、こちらからご覧になれます。
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