日・ルクセンブルクのスタートアップ、AC電池でEVの未来を拓く

日本と欧州を拠点に、グローバルな環境改善に挑む

9月 11, 2025
by Nithin Coca
日・ルクセンブルクのスタートアップ、AC電池でEVの未来を拓く
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JStories ー日本とルクセンブルクに拠点を持つスタートアップ企業、AC Biode(ACバイオード、京都市)は、独自開発した世界初の「独立型交流(AC)電池」で電気自動車(EV)の新しい未来を切り開こうとしている。
電気には直流(DC)と交流(AC)のふたつの流れ方があり、発電所から家庭などのコンセントに送られたり、電気機器の動力源となるのは交流の電気だ。一般的に交流を蓄えることはできないため、現在ある電池は直流に変換して蓄えており、モーターなどに使う場合は再び交流に変換される。
同社が開発したACバッテリーは、発電された交流の電気を直接蓄えて使うことができるため、そうした変換ロスがなく、電池の安全性や容量の大きな改善が期待できる。同社のACバッテリーは従来型に比べて15%効率が高く、寿命も2倍に延びるという。
とはいえ、AC Biodeのバッテリーが次世代EVに実際に使われるまでには、まだ時間がかかりそうだ。共同創業者の一人であるロバート・クンツマンさんは「私たちはEV業界を代表する企業のいくつかと協力しているものの、ACバッテリーは非常に挑戦的な技術であるため、市場に出るまでに少なくともあと5年は必要になるだろう」と語った。
(左から)AC Biodeの共同創業者である、久保直嗣さんとロバート・クンツマンさん 写真提供:AC Biode (以下同様)
(左から)AC Biodeの共同創業者である、久保直嗣さんとロバート・クンツマンさん 写真提供:AC Biode (以下同様)
現在、多くのEVはリチウムイオン電池に依存しており、平均航続距離(1回の充電で走れる距離)は約377キロメートルとガソリン車やディーゼル車に比べてかなり短い。さらにバッテリー自体が重いため、EVは内燃機関車(燃料をエンジン内部で燃焼させて走るガソリン車など)よりもずっしりと重くなってしまう。もしバッテリーがより小型で、効率的で、寿命も長くなれば、EVへの乗り換えを選ぶ人はもっと増えるだろう。

バッテリーの枠を超えて

AC BiodeはACバッテリーの改良を進める一方で、廃棄物の削減やリサイクル、再生可能エネルギーにつながる新たな環境技術の開発にも力を入れている。クンツマンさんは「持続可能性は一国だけの問題ではなく、世界全体で取り組むべき課題だ。地球と調和して生きられる社会をつくることこそ、最も意義のある使命かもしれない」と語った。
2025年7月、大阪・関西万博のインドパビリオンで開かれた「International Solar Festival」で、AC Biodeの久保直嗣CEOは太陽光パネルをリサイクルする新しい手法を発表した。久保さんは「私たちの技術は、使用済みの太陽光パネルを機械的にリサイクルし、リサイクル率の向上に貢献できる」と説明。同社はすでに大手メーカー製パネルからプラスチックを分離・分解できることを実証しており、増え続ける太陽光パネル廃棄物問題の解決に向けた一歩となっている。
自社のさまざまな技術についてプレゼンテーションを行うクンツマンさん
自社のさまざまな技術についてプレゼンテーションを行うクンツマンさん
使用済みの太陽光パネルは有害な化学物質を含む可能性があり、世界的な課題となりつつある。太陽光発電大国であるインドでは、2030年までに累積で約600キロトンのパネル廃棄物が発生すると予測されている。再生可能エネルギーが新たな環境リスクを生まないようにするためには、リサイクル技術の導入が不可欠である。
太陽光発電にとどまらず、AC Biodeは二酸化炭素(CO2)を回収してガラスに変換する技術や、プラスチック廃棄物を石油の原料に変える技術、さらにはPFAS(有機フッ素化合物)の代わりにフッ素を使わない新しい材料の開発など、さまざまなプロジェクトに取り組んでいる。その中でも商用化に最も近い技術の一つが、廃プラスチックを解重合する(最小単位モノマーまで分解する)触媒等の開発「Plastalyst:プラスタリスト」である。
混合繊維・靴廃棄物のサンプルで化学リサイクル実験を行うAC Biodeの研究チーム
混合繊維・靴廃棄物のサンプルで化学リサイクル実験を行うAC Biodeの研究チーム
さらに、クンツマンさんによると、「私たちは現在、インドネシアで、同国の国営電力会社PLNおよびシンガポールの政府系投資会社が運営するテマセク財団と共同で、最初の試験用工場を完成させつつある。この施設では、世界で初めてパーム油廃棄物から水素を生成する実験が行われる予定だ」。

世界に挑むスタートアップ

2019年に設立されたAC Biodeは、ルクセンブルクに本社を置き、日本にも拠点を持つ。創業者は、英国ケンブリッジ大学時代に出会った久保さんとCTO(最高技術責任者)の水沢厚志さん、そしてクンツマンさんの3人である。
久保さんは以前、双日に12年間勤務し、アフリカや中南米でバッテリー、機械、インフラ、再生可能エネルギー分野の事業開発や、事業ごとに資金を調達するプロジェクトに携わっていた。材料科学(物質の性質や機能を解明したり、新しい材料を創り出す学問)の博士号を持つ水沢さんは、京都大学で研究を行ったほか、ダイキン工業や米国のIM&T Research社でも経験を積んでいる。エンジニアリングのバックグラウンドを持つクンツマンさんは、欧州のCentre for Sustainable Road Freightで研究員を務めていた。
「AC Biodeは創業当初からグローバルなスタートアップである」とクンツマンさんは話す。「私たちの持続可能な社会を目指す使命は、3人の創業者それぞれの経歴にぴったり合致している」。
日本では水沢さんが研究所を運営し、欧州でクンツマンさんが活動、久保さんが「TIB PITCH Global 」などのカンファレンスで会社を代表することで、AC Biodeは世界各地の市場で事業を展開できている。
「日本では、優秀な人材にアクセスできる利点を活かしている。一方、ルクセンブルクは欧州市場への参入や、EUからの助成金の獲得を可能にしてくれる」とクンツマンさんは語った。
京都の研究所にて、AC Biodeのチーム
京都の研究所にて、AC Biodeのチーム

未来はほぼ確実に電動化へ

世界の産業界では、輸送や暖房にはバッテリーが使われる一方、水素やe-メタン(再生可能エネルギーを使って作られる合成メタン)などの代替燃料は、電化が難しい重工業や製鉄などの分野で主に活用される、という考えが広がりつつある。
AC Biodeは、独立型AC電池、太陽光パネルのリサイクル技術、Plastalyst、そして持続可能な水素といった革新的な取り組みに注力することで、幅広くも一貫した使命である「世界を持続可能で循環型の経済に近づけること」を追求している。
翻訳:藤川華子| JStories
編集:北松克朗 | JStories
トップ写真:Envato 提供
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