[PODCAST] 不妊治療を支える日本の新テクノロジー(Part 3)

In partnership with Disrupting JAPAN

4時間前
BY DISRUPTING JAPAN / TIM ROMERO
[PODCAST] 不妊治療を支える日本の新テクノロジー(Part 3)
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JStoriesでは、革新的な取り組みを行う日本のスタートアップを海外に紹介している人気ポッドキャスト番組 Disrupting JAPANと提携し、同番組が配信している興味深いエピソードを日本語で紹介しています。以下は、iPS細胞を用いた次世代の不妊治療法を開発するDioseve(ディオシーヴ)の共同創業者兼代表取締役である岸田和真さんとのインタビューで、複数回に分けて記事をお送りします。
*オリジナルの英語版ポッドキャストは、こちらで聴取可能です。
Disrupting JAPAN:Disrupting JAPANは、Google for Startups Japan の代表で東京を拠点に活動するイノベーター、作家、起業家であるティム・ロメロ氏が運営するポッドキャスト番組(英語)。ティム氏が数年後には有名ブランドになるポテンシャルがあると見出したイノベーティブな日本のスタートアップ企業をピックアップして、世界に紹介している。
Disrupting JAPAN:Disrupting JAPANは、Google for Startups Japan の代表で東京を拠点に活動するイノベーター、作家、起業家であるティム・ロメロ氏が運営するポッドキャスト番組(英語)。ティム氏が数年後には有名ブランドになるポテンシャルがあると見出したイノベーティブな日本のスタートアップ企業をピックアップして、世界に紹介している。
Disrupting Japan の創立者で自ら番組ホストも務めるティム・ロメロ氏
Disrupting Japan の創立者で自ら番組ホストも務めるティム・ロメロ氏

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(イントロダクション)

日本の最前線で活躍する起業家や投資家(VC)たちと本音で語る「Disrupting Japan」、ティム・ロメロです。
日本の少子化は世界的にも頻繁に取り上げられる問題ですが、実は近い将来、同じ課題に直面する先進国は他にも数多くあります。社会制度や経済面での大きな変革が求められる一方で、テクノロジーも解決に向けて大きな役割を果たしつつあります。
今回は、人の誕生に関わる先端医療をテーマに、Dioseve(ディオシーヴ)の共同創業者兼代表取締役である岸田和真さんにお話を伺います。Dioseveは、iPS細胞から卵子を作り出す技術を開発しており、これは体外受精(IVF)だけでなく、生殖医療全般にとって大きな前進となることが期待されています。また、同社が進める技術の一部は、早ければ来年にも商用化に向けた動きが始まる可能性があります。対談では、Dioseveの技術の仕組みや期待される社会的インパクト、そして避けて通れない倫理面・安全性の課題に至るまで幅広く議論します。さらに、日本には豊富な研究力と人材があるにもかかわらず、なぜバイオテック系スタートアップのエコシステムがまだ十分に成長していないのか、その背景にも迫ります。とても興味深い内容ですので、ぜひ最後までお楽しみください。

市場の可能性とDioseveの強み

Dioseve(ディオシーヴ)の共同創業者兼代表取締役である岸田和真さん  写真提供:Dioseve
Dioseve(ディオシーヴ)の共同創業者兼代表取締役である岸田和真さん  写真提供:Dioseve
(前回の続き)
ティム・ロメロ(インタビューアー、以下ロメロ):前回お聞きしたように、Dioseveはまず、体外受精で用いる卵子の成熟をサポートする「人工卵巣細胞」の実用化から進め、その実績を積みながら、より挑戦的で実験段階にある「人工卵子の創出技術」を育てていくという戦略ですね。
岸田和真(以下、岸田):その通りです。卵子の成熟をめぐる産業や市場は非常に大きく、理論上は現在の体外受精プロセス全体を代替できる可能性があります。特に先進国では年間約300万件の体外受精が行われており、そのほとんどの工程を置き換えられるポテンシャルがある。したがって、市場規模はきわめて大きいと言えるでしょう。
ロメロ:それは本当に大きな市場ですね。では、同じような技術やアプローチに取り組んでいるスタートアップは、日本国内や海外に他にもあるのでしょうか?
岸田:日本国内にはありません。現時点で、こうした技術に取り組んでいるのは当社だけです。海外にはいくつか類似のアプローチを進めている企業がありますが、私たちの大きな強みは、マウスを用いた実験で卵子成熟の効率が非常に高いことをすでに実証している点にあります。そうした成果を踏まえると、当社には非常に大きな可能性があると考えています。

日本のバイオテック・スタートアップエコシステムの課題

ロメロ:一般的に、バイオテックやライフサイエンスのスタートアップ・エコシステムは、日本よりも米国のほうがはるかに発達していますよね。日本では投資資金が少なく、その反面、ユニークなバイオ系スタートアップばかりが注目される傾向にあります。やはり、このようなスタートアップを日本で立ち上げるのは、米国や欧州で行う場合と比べて難しいのでしょうか?
岸田:私はそうは考えていません。日本でも資金調達のチャンスは多くあります。米国には数えきれないほどのバイオテック・スタートアップが存在し、競争が非常に激しいですが、日本では強いサイエンスとしっかりした事業計画、そして適切な市場投入のための戦略があれば、VC(ベンチャーキャピタル)は十分に投資してくれます。 その意味で、日本でも必要な資金を集める機会は十分にあると感じています。
ロメロ:それは心強い話ですね。ただ、そのうえであえて伺いたいのですが、日本にはバイオテック企業向けの資金もあり、大学では世界トップレベルのライフサイエンス研究が行われ、製薬企業も世界有数の存在です。それにもかかわらず、日本のバイオテック・スタートアップのエコシステムは、なぜこれほど発展が遅れているのでしょうか?
岸田: 一番大きな理由は、「大きなエグジット(企業売却や株式上場による資金回収)がほとんどない」ことです。日本には大手の製薬企業こそ数多くありますが、バイオ系スタートアップの大型買収(M&A)はほとんど行われていないのが実情です。
ロメロ:なるほど。そう考えると、研究に多額の資金を要し収益化まで非常に時間がかかる、米国のドラッグディスカバリー型(新しい医薬品の発見・開発に特化した)スタートアップのように、「いま100億円を調達し、10年後に1000億円規模でエグジットする」というモデルは、投資資金を大きく回収しづらい日本では成立しにくくなりますね。むしろ、Dioseveのように、段階的に収益を生み出しながら事業を進めていくタイプのモデルのほうが、国内の環境には適しているということになります。
写真提供:Envato
写真提供:Envato

IPO中心のエグジット戦略とその限界

岸田:そうですね、その通りです。たとえばボストンには多くのシェアラボがあり、そのスポンサーを務めているのは大手製薬企業です。彼らは、有望なバイオテック・スタートアップに極めて初期の段階からアプローチし、スタートアップ側が一定のデータを示すと、再びコンタクトを取り、M&Aの協議に進むという流れが確立しています。
一方で日本には、こうした動きがほとんどありません。スタートアップの側から製薬企業に働きかける必要がありますが、高額で買収してもらえるケースは非常に限られています。そのため、国内のバイオ系スタートアップが取り得る主な選択肢はIPO(株式公開)となります。しかし、日本のバイオ関連株式の市場環境は決して良いとは言えず、公開市場で大きな資金を調達するのも容易ではありません。
ロメロ:それに、出口戦略がほぼ IPO に限られてしまうと、挑戦できる企業の幅も狭まり、エコシステム全体の規模もどうしても小さくなってしまいますよね。
岸田:はい、そのとおりです。
ロメロ:IPOできる企業はごく限られていますが、M&Aは企業の様々な段階や理由で行われるので、より多くのスタートアップにとって(資金調達などの)チャンスになると思います。

臨床開発人材の不足と変化の兆し

岸田:それに加えて、日本には確かに強いサイエンスが数多く存在しますが、スタートアップのエコシステムには「臨床開発を担える人材」が極めて少ないという課題もあります。 臨床開発の優秀な人材自体は日本に大勢いるものの、その多くが大手製薬企業に留まっており、スタートアップの側へ移ってくるケースはあまり多くありません。
ロメロ:そうですね。ただ、まだ始まったばかりですが、伝統的な産業では、大企業を離れてスタートアップに移り、さらに再び大企業へ戻るという「人材の行き来」がようやく見え始めています。こうしたサイクルが一通り回り始めると、初めて本格的なイノベーションが生まれてくるのです。
岸田:ええ、確かに。状況は少しずつ改善してきています。
ロメロ:私も、そう思います。
岸田:また、VC からスタートアップに流れる資金量が増えたことで、高い給与を提示できるようになってきました。その結果、優秀な人材をスタートアップ側に迎えやすい環境が整ってきていると思います。
写真提供:Envato
写真提供:Envato

日本で進むバイオテック拠点づくり

ロメロ:ところで、この新しいビルを見て気づいたのですが、ここには小規模なライフサイエンス系のスタートアップやオフィスがたくさん入っていますね。ここはどういう場所なのですか?日本でも、こうしたバイオテック企業の拠点が形成されつつあるのでしょうか。
岸田:いい質問ですね。私もここがそうした拠点になっていくことを期待しています。このビルの所有者は日本最大のデベロッパーである三井不動産で、同社は日本各地にバイオテックの拠点をつくる構想を進めています。この新木場もその一つです。ご覧のとおり、このビルには多くのバイオ系スタートアップが入居しており、ここは「三井リンクラボ新木場2」と呼ばれています。ほかにも「三井リンクラボ新木場1」や「三井リンクラボ新木場3」などがあり、東京や大阪の各所で新しいバイオテックのエコシステムづくりが進められています。
ロメロ:ボストンで起きたようなイノベーションが、日本でも生まれてくるといいですね。
岸田:本当にそうですね。

日本でイノベーションが遅れる理由

ロメロ:日本は新しい医療技術の受け入れに時間がかかると思いますか?先ほど、日本は倫理面で保守的だという話がありましたが、米国や欧州と比べて、新しい医療技術やテクノロジーの導入が遅い傾向にあると感じますか?
岸田:はい、そう思います。
ロメロ:それは好ましくないことなのでしょうか?それとも、良い面もあるのでしょうか?
岸田:経済的にはマイナスです。技術革新というのは、本来、多くの試行錯誤を経て生まれるものです。挑戦しなければイノベーションは起きません。米国では失敗が多くても、「それはイノベーションに必要なプロセスだ」とある程度受け入れられています。一方、日本ではいわゆる「リスク回避症候群」のような状況があり、倫理委員会などの立場にある人々が新しい技術に許可を出しにくい環境があります。万が一失敗すれば、その承認判断そのものが批判されてしまうため、慎重にならざるを得ないのです。
ロメロ:それでは、イノベーションが遅れてしまうのも無理はありませんね。
岸田:そのとおりです。
ロメロ:ただ、そうした風潮は日本社会のさまざまな場面に広く見られるものですよね。
岸田:そう思います。
(第4回に続く)
第4回では、日本のイノベーションを阻む文化・制度の壁と、それをどう変えていけるのかを考察します。
[このコンテンツは、東京を拠点とするスタートアップポッドキャストDisrupting Japanとのパートナーシップにより提供されています。 ポッドキャストはDisrupting Japanのウェブサイトをご覧ください]
翻訳:藤川華子 | JStories
編集:北松克朗 | JStories
トップ写真:Envato 提供

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本記事の英語版は、こちらからご覧になれます。
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