世界初の技術で豚の雄雌生み分けを実現

従来の雌雄産み分け技術よりも低コストで簡単、生産を改善し環境負荷も低減ー将来的には人にも応用可能?

4月 26, 2024
BY YOSHIKO OHIRA
世界初の技術で豚の雄雌生み分けを実現
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J-STORIES ー 環境破壊や食糧不足への懸念、動物愛護意識の高まりなどを背景に、世界の食肉産業はいま大きな転機にある。緊急の課題は、現在の食肉生産をより効率的で環境負荷の少ない持続可能なビジネスに転換することだ。
その対策のひとつとなるのが、家畜の雌雄産み分け技術だ。少数の雄に対して、母になる雌を多く生み出した方が効率的な生産ができるだけでなく、雄の去勢が不要になるなど、アニマルウェルフェアや環境負荷の観点からも注目されている。
すでに牛や鶏では産み分けによる生産改善が進んでいるが、それがほとんど実現していない養豚についても、日本のベンチャー企業が簡便に産み分けができる世界初の技術を開発し、3年以内の事業化をめざしている。
「100年後もとんかつを食べよう」。こんなキャッチフレーズを掲げて新技術に取り組んでいるのは、広島大学発のスタートアップ、ルラビオ(広島県東広島市、白川晃久 CEO)。同大の大学院統合生命科学研究科の島田昌之 教授らの研究グループが2019年に発表した「哺乳類の簡便な雌雄産み分け技術」を活用し、豚の雌雄を効率的に生産する世界初の実用化技術の開発を進めている。
ルラビオが開発した豚の性選別用の試薬。     ルラビオ提供
ルラビオが開発した豚の性選別用の試薬。     ルラビオ提供
家畜の雌雄産み分け技術は、目的に合わせた生産調整、飼料の削減、環境負荷の低減などに大きな効果がある。産み分けには雄の精液にあるX染色体を持つ精子(X精子)とY染色体を持つ精子(Y 精子)の選別が必要で、牛の場合はフローサイトメーターと呼ばれるXY染色体を選別する装置を使った産み分けがすでに広く行われている。
envato 提供
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しかし、牛より販売価格が安い豚については、高価でメンテナンスコストがかかるフローサイトメーターの使用は難しい。ルラビオの白川さんによると、「既存のフローサイトメーターを使った場合、牛の種付けに必要な精子数が200万であるのに対し、豚は20億の精子が必要」だ。これほどの数の精子は短時間では処理できず、時間が掛かり過ぎて精子が死んでしまうという問題もあり、これまでは養豚会社で導入するところは限られていた。
島田教授らの研究は、フローサイトメーターを使うことなく、哺乳類のX精子のみに存在する受容体と結合する薬剤を投入することで簡単にX精子とY精子を分離し、人工授精させる方法を可能にした。同社がその試薬の開発、製造、販売を担う。
豚の精液に受容体と結合する試薬を投入すると、X精子とY精子が分離する。     ルラビオ提供
豚の精液に受容体と結合する試薬を投入すると、X精子とY精子が分離する。     ルラビオ提供
牛については既に雌雄産み分けが実用化されており、鶏も手法は異なるが技術は確立されている。白川さんによると、豚の産み分けについては、現在、世界に競合する技術はなく、市場は「ブルーオーシャン(手つかずの新しい市場)」だという。
同社は広島大学と特許使用のライセンス契約を結び、現在、国内の養豚会社や種豚会社で、試薬を使用した産み分けの実証実験を行っている。「産み分けの精度は6割程度。豚の種類や養豚会社によっても結果に差異があり、今後は精度をいかに上げていくか、そのための資金をどう調達していくかが課題」という。
無菌室での試薬作成の様子。     ルラビオ提供
無菌室での試薬作成の様子。     ルラビオ提供
世界の食肉市場は200兆円とも言われ、養豚産業は40兆円あまり。白川さんによると、そのうち養豚会社や種豚会社をマーケットとした豚の雌雄産み分け市場は約3000億円の規模があるが、日本の市場はわずか1.5%ほどしかなく、中露を除いて、実際に狙える市場は560億円ほど。「今後は、アメリカ、ヨーロッパへの進出を視野に事業化を進めていく」という。
envato 提供
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この技術のヒトへの応用について同社は、J -STORIESの取材に対し、「延長線上の技術なので可能だとは思う」、としながらも「倫理上、特許上もヒト精子は除外している」としている。
「事業に必要な豚を効率的に生産できることに加え、飼料の減少などが望める。しかも、去勢に係る費用も削減でき、アニマルウェルフェアの観点からのメリットもある。さらには温室効果ガスの減少や食肉文化の継承にもつながるなど、社会的な波及効果は大きい」- 白川晃久 CEO    ルラビオ提供
「事業に必要な豚を効率的に生産できることに加え、飼料の減少などが望める。しかも、去勢に係る費用も削減でき、アニマルウェルフェアの観点からのメリットもある。さらには温室効果ガスの減少や食肉文化の継承にもつながるなど、社会的な波及効果は大きい」- 白川晃久 CEO    ルラビオ提供
豚の雌雄産み分けを簡便にできる技術が広まることで、白川さんは「事業に必要な豚を効率的に生産できることに加え、飼料の減少などが望める。しかも、去勢に係る費用も削減でき、アニマルウェルフェアの観点からのメリットもある。さらには温室効果ガスの減少や食肉文化の継承にもつながるなど、社会的な波及効果は大きい」と話している。
記事:大平誉子 編集:北松克朗
トップ写真:ルラビオ 提供
この記事に関するお問い合わせは、 jstories@pacificbridge.jp にお寄せください。
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本記事の英語版は、こちらからご覧になれます。
コメント

最低動物の人間ごときが何様だよ。 マニアルウェルフェアで苦痛のある去勢しないようにって言うならわかるけど、100年後もとんかつを食べようなんて、最低すぎる。やっぱり日本は後進国だな



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