J-STORIES - 山形県などが進めている医療ツーリズムの最大の柱は、日本が世界の先端を行くがん治療だ。山形大学病院と併設されている東日本重粒子センターは、ドイツ、千葉県に続いて、世界で3台目となる最新技術の重粒子線装置を昨年から本格始動させた。同センター長の根本建二先生によると、これら最新技術のタイプを含め、重粒子装置は世界でも15台しか存在せず、そのうちの7台は日本にあるという。
現在行われている、がん治療は外科手術、化学療法、放射線の3本柱。重粒子線は、放射線治療の一種で、炭素の原子核を光の速さの約70%まで加速してがん腫瘍に対して体の外から照射する。重粒子線は体内で広がりにくく、がん腫瘍にピンポイントで集中させることができるため、周囲の正常な細胞を傷つけにくい。手術に比べて侵襲がなく、化学療法と比較しても患者の身体的負担が少なく早期の社会復帰を可能にする治療方法だと言われている。
東日本重粒子センターが本格稼働した装置は、回転ガントリーという様々な角度から重粒子線を照射ができる。患者自身は寝たままで治療が受けられるので、体への負担が最小限になると根本センター長は話す。また、重粒子線治療は従来の放射線治療よりも効き目が強く、患者さんの正常臓器への負担を軽減するという。
ただ、重粒子線治療は先進医療の分野であり、利用する上での課題も残されている。適応となるがんの種類がまだ限られているほか、過去に放射線治療を受けていないことなどが条件になる。保険適用になる疾病が増えてきている一方で、まだ先進医療対象となるケースがあり、治療費用が高額になるなどの制約もある。
根本センター長は、国内をはじめ海外の患者さんにも重粒子線治療について知ってもらい、適応のある患者さんには受けてもらいたいと話す。
このため、計画ではがん治療だけでなく、たとえば、蔵王温泉などに宿泊しながら山形の病院で「PET/CT検診」が受けられる簡易型の旅行プランなど、個々のニーズに合わせた医療観光のパッケージを用意している。山形大学医学部の「東日本重粒子センター」と連携した観光プランは、数週間かかる治療にしっかり専念できるよう、それぞれの患者の要望に応じた個別の旅行プランとして、6月を目標に順次提供を開始する予定だ。
国内の需要だけでなく、訪日外国人客によるインバウンド消費は地域経済の活性化に大きく貢献しており、国土交通省・観光庁では、各地の観光資源を活用した新しいツーリズム商品などの開発を呼び掛けている。今回の企画は、国内でも有数の先端医療施設を新たな地域資源ととらえ、国内の富裕層などだけでなく、医療インバウンドの受け入れ拡大も狙っている。
事業に参画している山新観光(本社:山形県山形市)の営業本部 鑓水信也氏によると、今回の企画は観光庁の奨励事業として採択されており、地域の宿泊施設、運輸、行政、観光協会、医療機関などとの綿密な連携によって商品化が実現した。鑓水さんは「今後も連携先との関係を継続し、弊社一社が行うのではなく、地域一丸となり取組む医療ツーリズムを目指す」と話している。
記事:高畑依実 編集:北松克朗
トップ写真:東日本重粒子センター提供
この記事に関するお問い合わせは、jstories@pacificbridge.jp にお寄せください。
***
本記事の英語版はこちらからご覧になれます。