J-STORIES ー 今年元日に巨大地震に見舞われた能登半島地域では、いまだに復旧の見通しが立たない被災地も多い。それだけでなく、日本列島には毎年、各地で大災害が頻発しており、災害関連死などの犠牲をなくすためにも避難生活の負担を減らす様々な方策がなお必要だ。中でも、日々の食事のおいしさは、栄養状態の維持だけでなく、長引く避難生活において精神面での負担を左右する重要な要因となる。
こうした中、ライフラインが崩壊し電気やガスが使えなくなっても、新聞紙1部あれば簡単にご飯が炊ける防災型炊飯器を日本の炊飯器メーカーが開発し、SNSを中心に注目が集まっている。
同炊飯器は、かまど本体の2つの穴から交互に新聞紙(牛乳パックに変えての炊飯も可能)をくべて着火。必要な新聞紙は、米3合が36ページ、5合であれば44ページ分。米の吸水時間を除けば、5合の米が約40分で炊きあがる。また、内釜には水の分量線もあり水加減の失敗や米の焦げ付きの心配もない。焦げ付きがないため、炊飯後の手入れも簡単な水洗いで完了。水利用の制限のある災害時でも、活用しやすい。
今年元日に巨大地震に見舞われた能登半島地震発生後には同炊飯器が話題となり、同炊飯器についてのSNS投稿の閲覧が1250万を超えるなど、利用価値などについても様々な声が集まった。
内鍋に廃棄予定の補修材を活用でサステナブルな製品づくりも実現
炊飯器でもっとも重要なのは内鍋の品質で、その良し悪しが炊きあがったご飯の味に大きく影響する。各メーカーがもっとも技術を結集し、様々な工夫を凝らす部品だが、内鍋は補修期間が国のガイドラインで決められており、それを過ぎた在庫は廃棄されるのがこれまでの通例だった。
同社では国のガイドラインでは6年となっている補修期間を10年に延長。さらに「魔法のかまどごはん」ではそうした補修用内鍋を再利用し、持続可能な製品づくりとしても新しい試みとなった。
炊飯器のプロジェクトリーダーとして開発にあたったのは、商品企画第2チームの村田勝則さん。入社以来約30年間、品質管理の仕事を担ってきた村田さんは2020年にカスタマーサービスに異動、アフターパーツのリサイクルという課題に直面した。
「炊飯器の内鍋と言えば、企業努力が結集された高価なもの。どうにか再利用できないかと考えたときに、学生時代、少年自然の家のアルバイトで、新聞紙の飯ごう炊飯をしたことを思い出した」という。
炊飯器での炊飯体験は楽しい。しかも美味しい。
開発にあたっては、コロナ禍ということもあり自宅で、様々なかまどを試作。「植木鉢やポリバケツなど70台以上のモデルを作り、燃焼効率を上げる実験をくり返し、製品化に近づけていった」。
完成した炊飯器は、「これまでの野外炊飯の水加減の難しさがなく、新聞紙を一定のタイミングで投入するだけで、失敗なくおいしいご飯が炊きあがる」と村田さん。「これまで防災イベントと言われると、義務的に参加して、あまりおいしくない防災食を食べるという、少し我慢を強いられるイメージを持つ人もいたと思う。しかし、この炊飯器での炊飯体験は、楽しい。しかも美味しいご飯の炊き方を学ぶ機会になる」と語る。
地震発生後、炊飯器利用に関する直接的な声は村田さんらに届いていないとしているものの、「能登地震の被災地に対して、まだ何もできていないことに歯がゆさを感じている。今後は、個人利用だけでなく、自治体などにも防災対策として、この炊飯器の価値を知っていただくきっかけづくりが必要」と話す。
「自然災害の多い日本。若い世代の人、特に子どもたちにとっては、今後も大きな災害を経験する可能性が大きい。そのためにも、多くの方に防災について改めて知っていただき、ご自宅の備えを見直すきっかけづくりとして、様々なイベントを通して、電気やガスがなくてもご飯が炊けることを知る経験の場を広げていきたい」と村田さんは話している。
記事:大平誉子 編集:北松克朗
写真提供:タイガー魔法瓶
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