JStories ー 都内のインバウンド観光先として人気の街、銀座では、街を歩きながらショッピングや食事を楽しむ多くの外国人旅行者の姿が日常の風景となっている。一方で、銀座のような高密度エリアでは「休める場所」「立ち止まれる空間」が常に不足しており、長時間歩く観光客にとって、ベンチなどの「滞在できる場」の不足は大きな課題となっている。
そうした都市の空白を埋める存在として注目されているのが、今年(2025年)1月にオープンした“体験型パブリックスペース”「Ginza Sony Park(銀座ソニーパーク)」である。銀座の中心部に建設されたこの施設は休憩所として無料で解放されているだけではなく、参加型・多感覚型の新たな空間デザインを導入した「21世紀型の公園」として、音楽、アート、テクノロジーを融合させた展示や、身体を使って楽しめるゲームコンテンツなども無料で楽しむことができる。

ソニー企業株式会社 代表取締役社長 兼 チーフブランディングオフィサー・永野大輔氏は、この施設を作った理由のひとつを銀座にリズムを作る為だと説明する。
「(ショッピングなどの後で歩き疲れた、だけどもう2、3軒行きたいという時に)今までだったら、疲れたので、じゃあもう帰ろうとなっていたが、銀座ソニーパークで休憩することで、続けてショッピングができる。音楽でいうところの休符のマークのように、一旦立ち止まることもできるし、エキサイティングな展示を見て楽しむこともできる。だから銀座という街の中のリズムを作りながら、オンとオフの切り替えができる」(永野氏)。

施設内の展示は、定期的に入れ替えられており、2025年春現在(取材時の4月17日)は、「Sony Park展2025」が開催中。この展示では、ソニーが取り組む6つの分野、「音楽」「半導体」「ファイナンス」「ゲーム」「エンタテインメントテクノロジー」「映画」をテーマに、それぞれの分野を「旅」「SF」「詩」「社交場」「ストリート」「森」に変換。BABYMONSTERやCreepy Nutsなど、6組のアーティストたちと共に、ユニークなプログラムが展開されていた。このように、銀座ソニーパークでは人間の感覚や知覚の在り方に焦点を当てた企画展が行われているように思われる。
「大事にしているのは余白とアクティビティ。アクティビティだけだったら、アミューズメントパークになってしまうし、リラックスするだけの空間(余白)であるならば、普通の公園でいい。エキサイティングな部分とリラックスする部分を掛け合わせたのが銀座ソニーパーク」と永野氏が語る通り、園内は余白とアクティビティで構成されており、展示においても、最新のテクノロジーを駆使したインタラクティブでエキサイティングなエリアと、落ち着いて映像や音楽を聞きながら休憩するエリアとで構成されている。
例えば、地下2階のフロアでは、人気ガールズグループBABYMONSTERの人気楽曲をモチーフにしたオリジナルの音楽ゲームを楽しめたり、3Dキャプチャー技術を活用して、来場者が自分のバーチャルキャラを作り、楽曲に合わせて踊らせることができる。


また、3階の展示フロアでは、8台の高画質LEDディスプレイと、約20台のスピーカーが設置された空間で、人気ヒップホップユニットCreepy Nutsのライブ映像を見ながら、臨場感溢れる音楽体験が可能だ。ベンチには、触覚提示技術を使ったモジュールが搭載されていて、音楽と振動の融合を体感できる。

こうしたアクティブな音楽、映像体験に対比して、4階の展示は「森」をテーマとしたリラックスできる空間となっており、作曲家・牛尾憲輔氏が選んだ21本の映画のサウンドトラックを椅子に座り、ヘッドフォンで聞くことができる。

また、施設内には洋食をベースとしたカジュアルダイニングスペース「1/2(Nibun no Ichi)」もあり、通常の1/4サイズの料理を2品盛りつけた料理が提供される。満腹にならずに複数の料理を一度に楽しめる「新たな食の楽しみ方」を提案するユニークな飲食店だ。

「夕食前に、少ししか食べたくないという時に少しだけ食べる、もしくは、せっかく銀座に来たから、たくさんのお店に行きたいが、この店も気になる方には、少し食べれば良いという理由で2分の1にしている」(永野氏)
こうした画期的な「公園」について、永野氏はソニーがかつて、ウォークマンで音楽を家から街へと持ち出し、PlayStationによって子どもの遊びを大人のエンタメに変え、AIBOによって人とロボットの関係性を変えたように、「銀座ソニーパークも新しい価値を世の中に提案したい。銀座ソニーパークがなくても銀座は成り立つ。でも、あればもっと面白くなる」とJStoriesの取材に答えた。(永野氏)
現時点では、銀座ソニーパークを体験できるのは銀座だけだが、将来、こうした都市空間の試みが、銀座の枠を超えて広がっていく可能性もある。永野氏は、「チャンスがあれば、将来的には銀座で成功したイベントを、ロンドンやパリ、上海といった世界の都市に展開したい」と語る。現時点で具体的な計画はないものの、「もし現地から声がかかれば、ぜひ取り組みたい」と前向きな姿勢を見せている。
「アートは、都市の中に紛れ込むことによって新しい人を引き込むことができる。銀座ソニーパークはアートや音楽との相性はとても良いので、アート、音楽というテーマで、これからもアクティビティをやっていきたいと思っている」(永野氏)

記事:劉洋
編集:一色崇典
トップ写真:Alexander Cas, Moritz Brinkhoff, Jeremy Touitou | JStories
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