米国特許制度、大転換の可能性—日本企業はどう対応すべきか(前半)

新政権のもとで進む制度改革、グローバル技術競争への影響とは

4時間前
by Eric D. Kirsch
米国特許制度、大転換の可能性—日本企業はどう対応すべきか(前半)
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記事の目次
JSTORIES ー 最近の米国のニュースは、突如として発表される政策変更、新たな施策、そして複数の行政機関における大規模な人員削減の話題で溢れています。本記事では、トランプ新政権のもとで、今後数カ月から数年の間に米国特許制度にどのような主要な改革、変更、削減が行われるのかを考察します。
新たなトランプ政権のもとでの米国特許商標庁(以下、USPTO)の変化や特許制度の法改正は、アメリカや日本の技術業界にとって大きな関心事となっています。これは、過去5年間で技術開発競争が激化し、そのスピードも飛躍的に向上しているためです。
エリック・カーシュ提供 (以下同様)<br>
エリック・カーシュ提供 (以下同様)
特許審査の未処理案件が膨大な数にのぼる中、トランプ政権は連邦政府職員のリモートワークを禁止し、対面勤務を義務付ける大統領令を発令しました。さらに、新規採用を原則禁止する大統領令も施行され、これらの政策がUSPTOの業務にどのような影響を与えるのか、多くの関係者が注目しています。
USPTOは、いくつかの点で他の連邦機関とは異なる特徴を持っています。まず、USPTOは収支が均衡している数少ない連邦機関の一つです。次に、1995年に導入されたテレワーク制度により、職員の95%がリモートワークを実施しています。さらに、多くの特許審査官は団体交渉協定(Collective Bargaining Agreement)に基づいて雇用条件が決められており、行政命令によって一方的に変更・解除することができません。
2025年1月20日、トランプ政権は、すべての連邦政府職員に対しリモートワークを禁止し、出社勤務を義務付ける大統領令を発令しました。さらに、特定の例外を除き、新規採用を禁止する別の大統領令も発令されました。
このリモートワーク禁止の大統領令がUSPTOの職員に与える影響は、それぞれの職員が団体交渉協定の適用を受けているかどうかによって異なります。USPTOの職員がどのように分類され、それぞれどのような影響を受けるのかについては、以下の図1にまとめています。
JSTORIES 翻訳
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新規採用禁止の大統領令に関しては、トランプ大統領の就任前、USPTOは特許審査の未処理案件を減らすために、新たに約600人の審査官を採用する予定でした。そのため、採用内定通知を送付していましたが、大統領令の発令により、USPTOはすべての内定を取り消しました。
また、リモートワーク禁止令の影響は、USPTOの職員の職種によって異なります。図1に示されているように、特許審査部では、通常の審査官(ケース1)は団体交渉協定の適用を受けているため、トランプ政権のリモートワーク禁止令があっても引き続きリモートワークが認められます。一方、監督審査官(ケース2)は団体交渉協定の適用を受けていないため、出勤が義務付けられます。
この点について、多くの専門家が懸念しているのは、監督審査官の多くがUSPTO本庁やサテライトオフィス(地域拠点)から遠く離れた場所に住んでいるため、通勤のために転居を余儀なくされる可能性があることです。その結果、転居を拒否して退職する人が増える可能性があり、そうなればUSPTOの未審査特許の案件数がさらに増え、特許審査の品質低下につながる恐れがあります。本記事の執筆時点では、トランプ政権のリモートワーク禁止令によって何名の監督審査官が退職することになるのかは明らかになっていません。
(後半へ続く)
後半では、トランプ政権のリモートワーク禁止令による特許審査の遅れや影響について、引き続き考察します。また、特許制度の見直しをめぐる法改正の動きと、それが企業や発明者に与える影響についても検討します。

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著者について

Eric D.  Kirsch(エリック・カーシュ)
Eric D.  Kirsch(エリック・カーシュ)
Eric D. Kirsch(エリック・カーシュ)
米ゼネラル・エレクトリック(GE)の宇宙関連部門で電子機器の設計やソフトウェア開発に従事した後、ピッツバーグ大学法科大学院に進学。卒業後はフィラデルフィア市の地方検事補を務め、その後、ニューヨークの知的財産専門の法律事務所で特許訴訟弁護士として活躍。2010年にニコンの知的財産部門・責任者(Chief IP Counsel)に就任し、10年にわたりその職務を務めた。現在は、リモン法律事務所の東京オフィスのパートナーとして活動している。
お問い合わせは eric.kirsch@rimonlaw.com まで。
翻訳:藤川華子
編集:北松克朗
Top 写真:Envato 提供
この記事に関するお問い合わせは、jstories@pacificbridge.jp にお寄せください。

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