J-STORIES ー 人間の知恵や判断力と機械の力を融合させ、人々をあらゆる肉体労働から解放する―。ロボット型重機を開発するベンチャー企業「人機一体」(滋賀県草津市)の代表取締役社長、金岡博士は、同社が見据える事業の未来をこう表現する。
同社が手掛ける人型重機は、人と機械の相乗効果を高め、人間の可能性を拡張するMan-Machine Synergy Effector(人間機械相乗効果器)という金岡博士独自の概念から生まれたもので、操縦者の動きや判断をきめ細かく反映し、様々な労働現場の条件や負荷にも対応できる。
金岡博士は立命館大学の教員として20年近くにわたり先端ロボット工学技術を研究、2007年に同社を設立した。今年3月、JR西日本、日本信号と3社の共同開発による空間重作業人機の実用レベル試作機「零式人機 ver2.0」を東京開催の国際ロボット展で公開した。
鉄道工事車両の長いアームの先に取り付けられた巨大な多機能ロボット重機が、人間のように滑らかできめの細かい動きを見せる。試作機を見た人たちからは「まるでガンダムのようだ」との声が出た。
重機のオペレーターは操縦席に座り、VRゴーグルを装着して人機を操作する。掴む、持ち上げる、運ぶなどの操作を実際に自分の手を動かして行うため、緻密な動きもコントロールしやすい。まるで作業箇所が自分の目の前にあるかのような感覚だ。
鉄道の安全確保には架線チェックや修復などの電気設備メンテナンスが欠かせないが、高所で行うため危険が多い。人型重機を使えば落下や感電などのリスクはなくなる。また、用途を限定しない汎用機であるため、運搬、伐採、塗装など幅広く対応することが可能という。
製品化、量産化を日本信号が担当し、JR西日本では2024年春から実用化、営業線での使用をめざしているという。
金岡博士がロボットの社会実装を急いだきっかけは2011年3月の東日本大震災だった。「こんなときこそロボットが助けてくれるはずと期待していたのに、技術はあっても社会実装されていない。人が危険を冒しながら現場へ赴かざるを得ない世の中をテクノロジーで変えたい」と思ったという。
同社は、先端ロボット工学技術の知的財産を活用する仕組みとしてサブスクリプション型サービス「人機プラットフォーム」を2019年に開始。社会課題を解決するために、革新的なロボットビジネスに取り組むパートナー企業を募っている。
リスクを伴う重労働は鉄道に限らず、土木建築、電力、交通、プラントメンテナンス、震災復興など多くの現場があり、ロボット型重機の用途は幅広い。現在も複数のプロジェクトが進行中で、同社によれば来年度には様々な成果を発表できる予定だという。
2025年大阪万博に向けて、下半身も人型であるフラッグシップ重機「零一式人機」のプロトタイプを開発する独自プロジェクトも進行中だ。金岡博士はJ-Storiesの取材に対し「車の運転よりも簡単に、まるで自分の体の一部、使い慣れた道具であるかのように扱えるロボットが、日常の仕事の中で当たり前に使われるようになるのが我々の目標」と語っている。
記事:嵯峨崎文香 編集:北松克朗
トップページ写真:alisachikov/Envato
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