JStories — 古都・京都が、新たなイノベーションの発信地として注目を集めている。京都大学100%出資のベンチャーキャピタル「京都大学イノベーションキャピタル(京都iCAP)」は台湾への進出を計画しており、台湾をアジア展開の次の拠点として位置づける戦略だ。コンパクトながら全てが揃っているというシリコンバレーのようなエコシステムの構築を目指す京都で、大学発技術の国際展開が新たな段階に入ろうとしている。
台湾を「アジアのゲートウェイ」として重視
京都iCAPの楠美公(くすみ・こう)代表は、台湾の戦略的重要性について「アジア進出の足場として非常に有力」と強調する。「時差もあまりなく、進出のしやすさという点で台湾やシンガポールは魅力的だ」と語り、従来の対米戦略やシンガポール拠点に加えて、向こう一年以内をめどにアジア市場開拓のための新たな拠点を台湾に新設する考えを示した。

京都大学発の基礎研究や技術を用いた事業化を支援する京都iCAPは、すでに台湾との戦略的な連携を行なっている。昨年、京都iCAPは台湾の国家発展委員会(NDC)との間で MOU(Memorandum of Understanding; 基本合意書)を締結、政府レベルでの協力関係を構築した。この枠組みを通じて、両国のスタートアップエコシステム間での情報共有や投資機会の創出が期待されている。
すでに京都iCAPは台湾の医療系スタートアップ「Act Genomics」 への投資を実行。同社は京都大学との共同研究を通じて日本の先端技術を活用したがんの個別診断サービスと創薬支援を提供している。楠美氏は「日本の大学の基礎研究のレベルは世界トップクラス。ただ、その事業化に関しては、台湾など他国に学ぶ点は多い」と分析し、相互補完的な連携の重要性を指摘した。
京都大学の研究の特性を反映し、京都ICAPの投資件数の約半分がライフサイエンス分野で、金額ベースでは更にその比重が高くなっている。

京都に芽生える「小さなシリコンバレー」
京都大学だけではなく、包括的なスタートアップのエコシステムも整いつつある。京都市中心部に設けられた「KOIN」は、会員数8000人弱のワーキングスペースで、年間200件を超えるイベントが開催されている。運営する一般社団法人「京都知恵産業創造の森」の金山裕喜次長は、京都府にある600社以上のスタートアップのうち、「そのほとんどのスタートアップが海外展開をめざしている、または関心があるのでは」と説明する。
特に注目されるのは、京都大学を中心とした大学発ベンチャーや大学生起業家の躍進だ。現役京大生が起業する例も増加しており、金山氏は「優秀な学生起業家が京都からどんどん生まれている」と手応えを語る。ライフサイエンス、グリーンテクノロジー、AI、ハードウェアなど多岐にわたる分野で革新的な技術が実用化されつつある。
京都はIVSという国際スタートアップイベントの開催地として知られているが、京都に拠点を構えるベンチャーキャピタル(VC)の数もここ数年顕著に増えており、学生起業家でも資金調達をしやすい環境が整ってきたと金山氏は言う。


世界を驚かせる京大発技術、伝統産業発の技術
「歯を生やす薬」で話題となったトレジェムバイオファーマ、電力を無線で送るスペースパワーテクノロジー、塗るだけで太陽光発電パネルとなる「どこでも電源」を提供するエネコートテクノロジーズ。まるで「ドラえもん」の技術のオンパレードとも言える先端技術が、京都から続々と生まれている。
一方で、創業70年近くの西陣織の企業が、世界のウェアラブルデバイス市場に進出している例もある。銀糸を活用した生体モニタリング技術で熱中症などによる健康状態の悪化の事前検知を可能にするなど、伝統産業と最新技術の融合も京都の特色となっている。
海外移転も辞さない「グローバル・ファースト」戦略
さらに注目すべきは、京都発スタートアップの大胆な海外展開だ。iCAPの投資先であるシノビ・セラピューティクス は、山中伸弥教授のiPS細胞技術を活用したがん治療の研究開発を進めており、米カリフォルニア州に本社を移転。
楠美氏は「資金調達の規模と市場の大きさを考えると、海外移転が合理的選択となる事例は増えている」と説明する。「日本の大学の基礎研究レベルは世界トップクラスだが、ビジネス化では他国に学ぶべき点が多い」との認識から、技術は日本発、ビジネス展開は最適地で行う戦略を推進している。
実証実験の場としての台湾の可能性
京都のスタートアップが台湾に注目する背景には、日本国内での実証実験の困難さもある。5、6年前、楠美氏が香港で目にした自動運転の実証実験は、実は京大教授の技術がベースにあった。「研究成果の社会実装という観点からは喜ばしいことだが、せっかく日本発の素晴らしい研究成果があるのに、それをいち早く活用しているのが海外のスタートアップだった点は残念に感じた」と振り返る。
金山氏も「台湾のスタートアップにとって日本進出にあたっての課題の一つが実証実験の制約」と指摘し、逆に台湾が日本の技術の実証実験場として機能する可能性を示唆した。創薬系やバイオテック分野でも、台湾での実証を経て世界展開する道筋が見えてきている。

新たなクロスボーダー・イノベーションモデル
京都が目指すのは、単なる技術輸出ではない。日本の先端技術と台湾や東南アジアでのビジネス化ノウハウを組み合わせ、アジア全体に価値を提供する新しいイノベーションモデルの構築だ。東アジアと東南アジアを合わせた人口規模は23億人以上というこの地域の潜在力を考えれば、この連携の意義は計り知れない。
楠美氏は「国際展開は、それ自体が目的なのではなく、日本の研究成果の社会実装という目的を実現するための手段。従って、ビジネス展開・事業拡張が日本でなく台湾でも構わないと思う」とも語り、技術革新による社会貢献の速度を上げることを最優先とする姿勢を鮮明にした。
コンパクトながらも世界レベルの技術集積を誇る京都と、アジアのビジネスハブとしての地位を確立した台湾。この連携が実現すれば、グローバル・イノベーションの新たなモデルケースとなる可能性を秘めている。
記事:JStories
トップ写真: Startup Island TAIWAN 提供
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