世界に広がる日本のエンタメコンテンツに新たな資金調達の道を

ブロックチェーンを使ったファンド方式で、海外からの投資も容易に

3月 28, 2025
BY HIROKO ISHII
世界に広がる日本のエンタメコンテンツに新たな資金調達の道を
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JSTORIES ― 日本のエンタメ業界はアニメやゲームなどのコンテンツ作りで世界をリードしているが、成長・拡大を続け、トップの座を維持するうえで取り組むべき課題は少なくない。そのひとつが、外部からの資金調達の活性化だ。日本では国内の関連会社などが出資し、その見返りに収益を得る「製作委員会」方式が主流だが、一般的な資金調達のように金融機関や海外投資家の資金を活用する方法は十分に整備されていない。
こうした状況を打破し、日本のエンタメ業界に新たな資金調達の道を開こうとしているのが、クエストリー(東京都港区、代表:伊部智信さん)だ。投資対象をコンテンツ産業に特化し、「製作委員会」方式ではなく、海外の投資家やファン、サポーターなどからデジタル証券やブロックチェーンによって資金を呼び込む仕組みを構築した。
株式会社クエストリー代表取締役伊部智信氏   提供:株式会社クエストリー 
株式会社クエストリー代表取締役伊部智信氏   提供:株式会社クエストリー 
同社は2022年9月に設立され、日本のエンタメ業界と金融業界を結びつける新たな金融商品の開発に取り組んでいる。日本のコンテンツ制作を支える既存の資金調達モデルに革新をもたらす、産業特化型の金融スタートアップだ。
日本発のコンテンツ産業の海外売上げは、我が国の鉄鋼産業、半導体産業の輸出額に匹敵する規模にまで拡大している。また、キャラクターの世界ランキング上位の半数は、『ポケモン』『ハローキティ』『アンパンマン』『ドラゴンボールZ』などの日本発のものになっている(TITLE MAX)。世界のコンテンツ市場規模の推移の中で日本は世界第3位。中でもアニメとゲームが牽引し、海外売上規模は1.4兆円( 2012年)から4.5兆円( 2021年)まで拡大し、2033年には、15~20兆円規模への成長を見込んでいる(内閣官房「新しい資本主義の グランドデザイン及び実行計画 2024年改訂版」)。
左から:アニメ『カイリューとゆうびんやさん』 提供:©2025 Pokémon. ©1995-2025 Nintendo/Creatures Inc. /GAME FREAK inc.    「ハーモニーランドフラワーファンタジー」イベントビジュアル 提供:  © 2025 SANRIO CO., LTD. TOKYO, JAPAN  著作 株式会社サンリオ
左から:アニメ『カイリューとゆうびんやさん』 提供:©2025 Pokémon. ©1995-2025 Nintendo/Creatures Inc. /GAME FREAK inc.    「ハーモニーランドフラワーファンタジー」イベントビジュアル 提供: © 2025 SANRIO CO., LTD. TOKYO, JAPAN  著作 株式会社サンリオ
こうした状況に注目した伊部氏は「コンテンツ制作の資金調達を、そのプロフェッショナルである金融機関が支援することで、これまでと違った可能性を見出し、エンタメ業界を盛り上げていけるのではないか」と考えた。そこで、特にアニメ映画の制作費を調達するためのコンテンツファンドをみずほ証券と共同で設立し、2024年から本格的に運用を開始している。
日本のエンタメ業界は、これまで約30年間にわたり、製作委員会方式の資金調達が主流になってきたのは、映画会社、広告代理店、テレビ局、出版社など作品に関連する様々な業種の企業が出資することで、制作費の負担を分散し、リスクを軽減する効果が見込めることなどが主な理由だった。
しかし、この方式では外部からの資金が入りにくく、世界への流通基盤が不足していた。特に日本のアニメ映画は、世界的に見ても人気が高く、非常に魅力的な投資対象だが、制作現場では収入が十分に還元されていないことや過酷な労働環境に置かれモチベーションの低下につながるケースも多い。また制作には多額の資金が必要で、業界内だけで資金を調達するには限界がある。
過酷な環境で働くアニメーターも多い(写真はイメージ)  提供:Envato
過酷な環境で働くアニメーターも多い(写真はイメージ)  提供:Envato
このような状況を打開するためには資金調達の多様化が必要だと捉え、事業を始めたという。またそもそも音楽が趣味で、ピアノ弾いたり作曲したりする中で、アーティストやクリエイターと接する機会があり、コンテンツ自体が面白い投資対象になるだろうと考えていた。
株式会社クエストリー代表取締役伊部智信氏のインタビュー  [2024 STO Interview] Tomonobu Ibe     이데일리TV YouTube Channel より
そこに自分のこれまでゴールドマンサックスでの業務で得た金融知識や経験を活かせたらと思い付き、地域や通貨の制約を超え、日本のコンテンツを支援する世界中の投資家、ファンやサポーターから資金を調達する仕組みを構築した。
クエストリー社のシステムの特徴は、資金取引の記録を暗号技術で分散して管理する制作ブロックチェーンを使ったファンド方式をとっている点だ。これによって、通貨の種類に関わりなく海外からより幅広く投資家を募ることができ、国際的な資金調達を展開することが容易になる、と伊部さんは話している。
提供:株式会社クエストリー
提供:株式会社クエストリー
投資家は、ファンドを通じてアニメ映画の制作に資金を提供し、作品がヒットした場合には利益の一部を受け取ることができる。コンテンツ産業は、投資商品としての情報やデータを適切に開示する。そうすることで新たな資金の好循環を生み出していく。この仕組みは、韓国やアメリカでは既に一般的であり、特に韓国では映画の90%以上がファンドによって制作されているという。
日本のエンタメ業界でも、ファンドを通じた資金調達が普及すれば、クリエイターへの還元が増え、制作のモチベーションが高まることが期待できる。ファンド方式については、これまでコンテンツ制作の出資元となっていた「映画配給会社、出版社、映像配信会社、テレビ局、広告代理店などとは、競合ではなく、あくまでも“パートナー”として連携して事業を展開できるかが、非常に重要」と伊部さんは指摘する。
クエストリーは、現在アニメ映画に焦点を当てているが、今後はゲームや映画館などのライブエンタメ、農業など、他の分野にもファンドを拡大していくという。また自社で証券免許も取得予定だ。
日本発のコンテンツは世界の至るところで人気を呼ぶ潜在力があり、グローバルに展開しやすいことが強みだと伊部さんは指摘、特に韓国や東南アジアからの資金調達を見込んでいる。
「私たちの目標は、日本のコンテンツを世界に発信し、業界全体を活性化させること。ブロックチェーン技術を活用した新しい資金調達の仕組みを取り入れることで日本のエンタメ業界をさらに発展させていきたい」と伊部さんは話している。
記事:石井広子 
編集:北松克朗
トップ写真:Envato
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