J-STORIES ー 日本の伝統文化の象徴とも言われる「着物」。成人式などでの行事で使われることも多く、その存在感は今も変わらないが、ライフスタイルの変化などによりピーク時には約1.8兆円といわれた市場規模が6分の1以下にまでに落ち込むなど産業としては衰退の一途をたどっている。
こうした中、着物と同じような特徴を持つ南アジアの民族衣装サリーを着物の伝統技術を使って作成し、世界最大の人口大国インドを新しい市場として開拓する試みが始まっている。
このアイデアは、自身も4代目の職人であり、京友禅の業者で作られた京都工芸染匠協同組合の理事長を務める竹鼻進氏が発案した。
サリーは長さが着物の反物の半分程度で、幅は着物の倍程度の長さがあるなど違いはあるが、一枚の布で、体に巻きつけて着用することや、面積の大きさなど共通点が多い。
インドは14億人以上の人口を誇り、2023年夏に中国を抜いて世界一の人口大国になったばかりでなく、若年層の多さから経済も順調で2027年にはGDPが日本を抜いて世界3位になると予測されている。更に人口1億7000万人以上の隣国バングラデシュもサリーを着用国で、富裕層の人口が急増中だ。サリー市場は既に巨大だが、更なる拡大も見込まれている。
「私たちは、何世紀にもわたって日本の高品質な着物を生産してきたのと同じ織りと染めの技術を使用しています。過去一年、インドでの販売に向けた我々の最初の取り組みは順調です」と竹鼻氏は語る。
京都の染色加工会社11社が作成した「京友禅サリー」は、京友禅と同じく鮮やかな色彩と金箔などの精緻な刺繍が特徴で、長さ5メートルの生地に桜や、松竹梅など着物ではお馴染みの和のモチーフが描かれている。
竹鼻氏によれば、競争の激しいインドのサリー市場で生き残る為には、裕福なインド人バイヤーに日本古来の技術をアピールすることが必要だと強調する。
「着物職人の収入を増やし、彼らの歴史的な技術を守ろうと必死でした。生き残るためには、日本製品だけにとらわれない世界的なブランドになるつもりです」(竹鼻氏)
このユニークなアイデアは、京都の緊密な伝統に小さな革命をもたらしている。職人たちは在京インド大使館のお墨付きをもらい、2022年にインドで何度か展示会を開いた。
友禅染のサリーは1枚100万円近い値がついている。竹鼻氏は、反響はゆっくりではあるがポジティブなもので、インドで高級品を求めるビジネスウーマンを含む富裕層をターゲットにした衣料品バイヤーと契約を結んだことが大きな突破口になったと説明する。
「新しい市場への参入はエキサイティングであると同時にチャレンジでもあリます。マーケティングには、ファッションショーを含む多くの説明が含まれます。クロスカルチャーは、多様な才能を結びつけるのです」。
今年12月には、数十億ドル規模の国内映画産業で有名なインドの金融都市、ムンバイで展示会を開く予定だ。
英語記事:ドリーニー・カクチ
日本語記事:一色崇典 編集:前田利継
トップ写真:京都工芸染匠協同組合 提供
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