J-STORIES ― 世界3大害草のひとつと言われるホテイアオイ。一年に数百倍とも言われる爆発的な繁殖力であっという間に川や池、沼を被い尽くして、遮光による水質汚染や、生態系の破壊をもたらす。また水上交通や漁業を妨げるなど、人々の暮らしに悪影響を及ぼすなど「青い悪魔」と世界各地で恐れられている存在だ。その「厄介者」を回収し、新たな生活の糧に変身させようというリサイクルビジネスが、日本の老舗企業の手で広がりつつある。
その企業とは古紙などの回収・再生事業を半世紀以上手掛けてきたサンウエスパ(岐阜県岐阜市)。代表取締役の原有匡さんは2015年に31歳で経営を任されて以降、「不要なものに価値を見出す」リサイクル事業の将来を人口減の日本ではなく成長する海外に求めようとの思いから、同社の国際展開に力を入れてきた。
自社の技術を生かす海外の舞台として着目したのが、カンボジアだった。同国では、東南アジア最大の湖であるトンレサップ湖でホテイアオイが大量に増殖し、水上交通や漁業を妨げるなど大きな問題となっていた。この害草を除去するだけでなく、生活に役立つ新たな資源としてリサイクルすれば、暮らしの改善だけでなく、回収作業を通じて地元に新たな雇用をもたらすこともできる。
同社は5年前から同湖のホテイアオイを回収し、それを原料にしてバイオ燃料であるエタノールの生産を続けてきた。今年5月には、地元コンポンチュナン州との協力による量産プラントが稼働した。
プラントで製造したエタノールは、水上生活者の必需品である発電機の燃料にするほか、消毒液にも転用されている。また、エタノール生成後の残渣を使ってメタンガスを産出、プラント内の生活施設でエネルギーとして使われている。
ただ、ホテイアオイ由来のバイオエタノールは燃料としての収益性が十分ではなく、今後の市場拡大は期待しにくい。同社ではより付加価値の高いビジネスを実現すべく、エタノールを活用した高級クラフトジン(蒸留酒「ジン」の一種)の生産にも乗り出している。
同社によると、エタノールの付加価値は飲料用にすることで燃料用の100倍以上にもなる。すでに、サトウキビ由来のバイオエタノールを原料にした高級クラフトジン「MAWSIM(マウシム)」を商品化し、今夏からカンボジアのホテルに提供、日本などでも通販サイトで販売中だ。
マウシムは、2023年1月に開かれた「WORLD GIN AWARDS 2023」での「世界一位 受賞」に続き、3月には世界3大酒類コンペティション「IWSC 2023」にて金賞を受賞するなど世界で好評価を受けている。
ホテイアオイの被害はカンボジアだけでなく、アジアの他の地域でも深刻だ。J-Storiesの取材の中で、原さんは今後も自社の技術を活用したエネルギーリサイクルの拡大に意欲を示し、ラオスやスリランカなど他国でも展開して行きたいと話している。
記事:高畑依実 編集:北松克朗
トップ写真:サンウエスパ 提供
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