ペットのためのリラックス音楽を生成AIで制作・配信 

飼い主に会えない不安を和らげ、愛犬の異常な行動を防ぐ 

1月 10, 2025
BY HIROKO ISHI
ペットのためのリラックス音楽を生成AIで制作・配信 
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One by One Musicが提供するサービスのイメージ画像(ヘッドフォンを装着する必要はない)      One by One Music 提供 (以下同様)
One by One Musicが提供するサービスのイメージ画像(ヘッドフォンを装着する必要はない)      One by One Music 提供 (以下同様)
J-STORIES ー 人と犬には、飼い主、ペットとして共生してきた長い歴史があり、多くの人々にとって、犬は癒しや生きがいを与えてくれる貴重な存在でもある。しかし、その一方で、ペットの犬たちが飼い主を慕うあまり、かえって大きなストレスを抱え、異常な行動をとることも少なくない。
その典型的な例が、飼い主と離れてしまったペットの犬たちが過度の不安や孤独感に陥ってしまう「分離不安症」だ。そうした犬たちは、飼い主の姿が見えなくなると動揺し、長時間吠え続け、自分の体を噛んで傷つけたり、嘔吐や下痢を繰り返す。米国では、犬の問題行動の20~40%が分離不安症によって引き起こされている、との報告もある。
飼い主から離れたくないというペットたちの不安やストレスをどうしたら和らげることができるのか。その問題を生成AIが作る音楽の力で解決しようと取り組んでいるスタートアップ企業が2023年6月に設立されたOne by One Music(東京都新宿区、代表:畠山 祥さん)だ。
同社は「全動物のアニマルウェルフェア向上を目指す」という目標を掲げ、犬を対象にした独自の研究で得たデータなどをもとに生成AIが生み出す「ペットのためのリラックス音楽」を開発した。同年11月から社名と同じ「One by One Music」(ワンバイワンミュージック)の商品名で有料配信を始めている。
 ペットのストレスを生む分離不安症などは、飼い主に十分な世話をしてもらえないことが大きな要因になる。もし音楽を流すだけでペットがリラックスできるならば、飼い主がそばにいなくてもストレスをケアできるのではないか。
そう考えた畠山さんは、早稲田大学大学院に在学中から、獣医師免許を持つ麻布大学獣医学部教授の植竹勝治さんのほか、東京芸術大学卒の作曲家、熊本大学医学生らと協力、ペットの不安を鎮める効果のある音楽の共同開発を行ってきた。
犬に音楽を聴かせる実験の様子 
犬に音楽を聴かせる実験の様子 
音楽によるストレス解消の効果はてきめんだった。2年間にわたる研究で、犬の唾液の中にあるストレスホルモンと言われる「コルチゾール」について音楽を聴かせる前と後の数値を比べたところ、聴かせたあとの数値が最大で84%下がったという(犬種や頭数は非公開)。最も苦労したのは、人間にもペット犬にも聴き心地のいい曲を生成することだった。周波数や曲のテンポ、使用する楽器、曲調などに配慮したという。
研究開発には、畠山さんが在籍していた早稲田大学の助成金のほか、クラウドファンディングによって集めた121万円余りを使った。生成AIで作り出すペットのための音楽を24時間365日、webサイトで流し続けるこの技術は、特許出願中だ。 
開発した音楽によるコルチゾール値の変化の結果 
開発した音楽によるコルチゾール値の変化の結果 
「ほぼすべての犬が飼い主の留守中にストレスを感じるのではないか」と畠山さんは話す。日本ではペット犬数の20%に当たる約100万頭が分離不安症を患っている可能性があり、そうした犬たちを念頭に開発を進めたという。
同社によると、「one by one music」は世界で初めて科学的な検証に基づいて開発された動物向けの音楽配信。サービスを利用するには3つのプランがあり、「個人プラン」は月額980円で、収益の一部を動物愛護のために寄付している。「保護プラン」は動物愛護施設や里親の方に無料で提供。「法人プラン」は月額2,980円となっている。
one by one musicの音楽提供のサブスクリプションについて
one by one musicの音楽提供のサブスクリプションについて
犬が音楽を聴いているときの様子 
犬が音楽を聴いているときの様子 
サービスは現在、webサイトでのみの配信だが、畠山さんはNEDO(国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構)から新規事業の公募採択を受け、スマートフォン用のアプリも開発中だ。アプリで撮影した犬の画像から、その犬のストレスレベルをAIで解析。さらに、流した音楽が犬のストレス緩和にどれほど効果的かというデータが蓄積され、よりストレス軽減効果のある音楽が自動的に選別・配信されるという。
「犬の聴覚特性を利用し、周波数によって聴きやすい音楽のチューニングを行い、それぞれのペットに合わせた音楽を提供していきたい」と畠山さん。いわば、カスタムメードのリラックス音楽を流すシステムで、同社では来年度中のアプリ提供を目指している。
「犬と人間の両者が心地よい共生社会を実現していきたい」 one by one music代表の畠山 祥氏     同社提供
「犬と人間の両者が心地よい共生社会を実現していきたい」 one by one music代表の畠山 祥氏 同社提供
一方、同社は他業種との協業も進めている。コンビニ大手のセブンイレブンの中でもペットが多いエリアにある店舗のペットグッズ販売コーナーで、one by one musicのQRコードを表示している。QRコードを読み取ると、ペット用の音楽を聴くことができる。現在は1店舗だけでの実証実験中だが、効果があれば店舗数を増やしていける可能性もあるという。 
海外からのニーズも高まっている。現在、同社サービスの顧客は20~30%が海外からの利用者であり、特にペットとしての犬猫の販売禁止が進む米国では、里親や保護施設でストレスを抱えがちな犬が多く、サービスの市場拡大が見込めると同社は予想する。
さらに、車内空調を犬専用に管理し、リラックス音楽をかけるドックモードという機能をもったペットフレンドリーの自動車を米国企業と行う計画もある。今後は犬だけでなく、猫や牧場の牛、競走馬など他の動物への応用や海外での事業展開を目指したいと畠山さんは話している。犬に続いて、次は猫向けのサービスを計画している。日本での猫の飼育数は約900万頭に上り、一般家庭への配信ニーズが期待できるからだ。
ペットとの共生を通じて暮らしの癒しや生きがいを求める人は多く、矢野経済研究所の調べによると、日本における2024年度のペット関連総市場の規模は、前年度比2.1%増の1兆9,026億円にのぼる見通しだ。犬の飼育頭数は減少傾向にあるものの、なお約684万4,000頭がペットとして飼われておりいる(一般社団法人ペットフード協会2023年全国犬猫飼育実態調査)。しかし、その多くが、人と共生する中で分離不安症などのストレスを抱えているという。
「動物と人間が共生することで生じた問題は、人間が解決をしていくべき」と畠山さんは語る同社が配信を始めたサービスは「当事者目線でペットの分離不安症という課題と向き合った」との評価を受け、2023年度グッドデザイン・ニューホープ賞を受賞している。
サンプル音楽を聴くには、こちらをご覧ください: https://www.onebyonemusic.com
記事:石井広子 
編集:北松克朗
トップページ写真:One by One Music 提供
この記事に関するお問い合わせは、jstories@pacificbridge.jp にお寄せください。

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本記事の英語版は、こちらからご覧になれます。
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