J-STORIES ー ロシアによる軍事侵攻を逃れ国外に脱出したウクライナの人々に対し、世界各地で寄付や医療、宿泊施設の提供など様々な支援の輪が拡大している。しかし、現地の惨状が長期化する見通しの中、人々を待ち受けるのは、そうした一時的なサポートに頼らず、異国において自ら生活基盤を確立するというチャレンジだ。
祖国に帰れない人々が受け入れ先の国でどのように自立できるのか。その大きなカギは、企業による雇用の提供にある。日本ではすでにディスカウント店「ドン・キホーテ」を運営するパン・パシフィック・インターナショナルがウクライナ避難民100世帯に生活資金や宿舎のほか、雇用提供も検討すると発表。西濃運輸を傘下に持つセイノーホールディングスも政府が受け入れる避難民を対象に住居と仕事の提供を表明している。
こうした支援のすそ野をさらに広げようと、海外からの避難民と企業とのマッチングを支援しているNPO法人WELgee(本部:東京都渋谷区)は今月9日、難民採用についてのオンライン説明会を開催した。
説明会には企業や自治体、NPO団体関係者ら60名以上が参加。チャットを通じたやり取りながら、「ビザの手続きはどうしたらいいか」、「日本になじめるのか」、「いつまで働いてくれるのか」など熱心な質問が相次いだ。ウクライナの人々の雇用を通じ、「職場に多様性が生まれ、刺激になることを期待している」という声も出た。
「いま、びっくりするほどの問い合わせが毎日来ている。雇用と住居を提供したいという前向きな声が多い」とWELgee代表の渡部カンコロンゴ清花さんは言う。
J-Storiesの取材に対し、渡部さんは、これまでシリア、アフガニスタン、ミャンマーなどで起きた難民問題とは比較にならないほど、今回は受け入れ側の積極姿勢が目立つと指摘。「日本社会のアンテナの感度がそれほどまで高まっている」と述べた。
日本では、短期滞在ビザは比較的取得しやすいが、長期で安定的な居留が保証される政府による「難民」認定は申請者の1%以下にとどまる。しかし、難民資格の申請中であっても就労許可があれば、企業側の採用は可能だ。
WELgeeでは、これまでも難民人材と企業側のマッチング、採用支援、採用後の定着サポートという長期の「就労伴走事業」を手掛けてきた。難民といっても母国では高度な職業経験や技術力を持つ人材が豊富で、企業側にも採用が大きなメリットになりうるという考えからだ。
渡部さんは、「ウクライナのように帰る母国を失った人、家族を置いて単身で脱出した人、子供を抱えて日本に逃げてきた人など、避難民側の状況は様々に異なっており、職探しも千差万別だ」と就労支援の難しさを説明する。
同時に、渡部さんは、避難民支援の必要性が日本社会で着々と認知されつつあると指摘。今後は支援を行う団体や企業向けに正しい情報提供を続け、一時的な避難から長期的な滞在まで対応出来るサポートのプラットフォームを作りたいと話している。
記事:高畑依実 編集:北松克朗
トップ写真:WELgee提供
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