J-STORIES ー 暗い、汚いといったマイナスのイメージを持たれることが多い公共トイレに「革命」を起こすプロジェクトが東京都渋谷区で進んでいる。音声操作ができるトイレや鍵をかけるまで個室の中が透けて見えるトイレなど、著名な建築家やデザイナーらが手掛けた斬新な設計を取り入れた新しいトイレが次々と登場している。
「THE TOKYO TOILET」と銘打ったこのプロジェクトは、公共トイレを誰もが快適に利用できる空間にしようと、日本財団が事業化した。計画している17のトイレのうち、これまでに13カ所が完成、残りの4カ所は2023年3月末までに出来上がる予定だ。
幡ヶ谷駅から徒歩6分、渋谷区立七号通り公園には音声認識システムがついたトイレが出来上がった。利用者はドアの開閉や便器の操作などトイレの様々な機能を声で操作が可能だ。普通のトイレと同じように手でも操作ができるので、聴覚障害や発声障害を持つ人たちも取り残されることなく利用できる。
代々木公園の代々木公園駅側と代々木八幡駅側にそれぞれ設置されたのは、無人の際に個室の中が透けて見えるトイレ。誰が中に入っているか分かりにくく、入りにくいという公共トイレの問題の解決を目的としている。
日本財団で広報を担当する山田 哲子さんは、J-Storiesの取材の中で、公共トイレがきれいに使われない原因の1つに人の目の届きにくさがある、と指摘。「公共トイレが待ち合わせ場所に使われたり、人が集まる場所になれば、公共トイレも少しずつ変わっていくのではないか」と話した。
東京五輪のメインスタジアムとなった新しい国立競技場(東京都新宿区)の設計を手掛け、木をふんだんに使ったデザインで大きな話題を呼んだ日本の代表的な建築家、隈研吾さんは、このプロジェクトで鍋島松濤トイレを担当、木の温かさに包まれて「トイレを散策する楽しさ」を演出した。トイレの外や内側に様々な木の端材をあしらってあり、恋人たちが寄り添って歩く場所としても絵になるデザインになっている。
同プロジェクトは、今年6月、来場者数と出品数ともに世界最大規模の広告・コミュニケーションフェスティバルであるカンヌライオンズ 国際クリエイティビティ・フェスティバル(フランス・カンヌ)で、デザイン部門で2位となる「シルバーライオン」を受賞した。
渋谷区は社会課題の解決等に向けた取り組みを進める一環として、2017年に日本財団と「ソーシャルイノベーションに関する包括連携協定」を締結した。このプロジェクトは渋谷区との協定に基づいているため、他の地域に広げていく予定はないが、日本財団の山田さんは「今回のプロジェクトを見て共感してもらい、同じような問題を抱えている地域で広がってもらえたら嬉しい」と話している。
記事:澤田祐衣 編集:北松克朗
トップ写真:crazyphotography / Envato
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