温泉に生息する独自の水素菌がCO2を資源に変える

微生物の力を活かす独自技術で地球温暖化や食糧危機を克服へ

10時間前
BY AYAKA SAGASAKI
温泉に生息する独自の水素菌がCO2を資源に変える
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JStories — カーボンニュートラルの未来へ向けて、排出を削減するばかりではなく、大気中に存在するCO2の有効利用も重要な課題になっている。その一つのカギとなるのが、大阪・関西万博日本館でも紹介された革新技術が水素酸化細菌(以下水素菌)の活用だ。
水素菌は、水素を酸化する際のエネルギーでCO2を吸収・固定して有機物に変える微生物で、タンパク質やエタノール、生分解性プラスチックなどの原料を生み出すことができる。土壌や海洋、温泉などに生息しており、1950年代に発見されたが、脱CO2の有望な対策として近年、さまざまな活用技術の開発が進んでいる。
そうした中で、日本で発見された独自の水素菌を活用してCO2の資源化を進め、様々な製品を開発しているのが2015年に設立されたCO2資源化研究所だ。同社が活用する水素菌は、1976年に東大の兒玉徹名誉教授が日本の温泉地で発見した微生物で、UCDI®水素菌と名付けられている。
UCDI®水素菌の電子顕微鏡画像   写真提供:CO2資源化研究所(以下同様)
UCDI®水素菌の電子顕微鏡画像   写真提供:CO2資源化研究所(以下同様)
この水素菌は、これまで他の地域で報告されている水素菌と比べて増殖速度が速いのが特徴で、理論値では1gの水素菌が24時間で16トンの菌体に増えるという。増殖速度が速い分、実用化する際の経済効率は高い。また、生育に適した温度は52℃と一般的な菌より高温なため、雑菌汚染リスクを抑えることができる。さらに粗タンパク質含有率が83.8%と高く、優れた動物性タンパク質になるのも特長だ。
UCDI®水素菌(左)を研究所で10時間培養した様子(右)。約1時間に1回分裂するという増殖スピードが強みになる
UCDI®水素菌(左)を研究所で10時間培養した様子(右)。約1時間に1回分裂するという増殖スピードが強みになる
培養した菌体を凍結、乾燥させた状態 
培養した菌体を凍結、乾燥させた状態 
東大研究室時代に兒玉名誉教授の教えを受けた同研究所代表取締役の湯川氏は、「兒玉名誉教授が伊豆の温泉で発見した微生物を応用、実用化したい」という思いを抱いていた。「増殖時間が速いために自己制御が強く応用できるようになるまで時間がかかったが、10年に渡る研究の末に可能になった」と振り返る。
このUCDI®水素菌を応用して生まれる製品は、動物性タンパク質、水産分野、畜産分野の飼料用動物性タンパク原料、バイオプラスチック、燃料など。CO2対策や食糧危機への対応策として、コスモエネルギーホールディングスや大林組など複数の企業と共同研究を行うなど、実用化へ向けて開発が続けられている。
しかし、最大のネックは水素のコストが高いことだ。
「原料とする水素の価格が低下すれば、一気に実用化への道が開けると考えている。一方で、プロテインなど口に入れるもの、化粧品などは、化学製品を使用しないことが付加価値になる。環境に対する意識が高い人々に向けて、価格が多少高くてもいい製品として需要があるのではないか」(湯川氏)
代表取締役の湯川英明氏は、東京大学農学部卒業後、三菱油化(現三菱化学)にて生物化学研究に従事し、地球環境産業技術研究機構(RITE)バイオ研究機能の立ち上げに参画、2015年にCO2資源化研究所を創業
代表取締役の湯川英明氏は、東京大学農学部卒業後、三菱油化(現三菱化学)にて生物化学研究に従事し、地球環境産業技術研究機構(RITE)バイオ研究機能の立ち上げに参画、2015年にCO2資源化研究所を創業
水素菌を活用した同研究所のバイオテクノロジー製品には様々な市場の可能性が広がっている。たとえばIATA(国際航空運送協会)などの国際機関が、2050年までに航空業界のカーボンニュートラル達成を目標とする中で、航空機における持続可能な航空燃料(SAF)の使用割合を増やすことが急務だ。そのため、バイオ燃料は今後ますます必要となるだろう。
東京都港区台場にある同研究所ではバイオテクノロジーのエキスパートたちが日々研究を続けている
東京都港区台場にある同研究所ではバイオテクノロジーのエキスパートたちが日々研究を続けている
脱石油の意識の高い欧州では、我々の製品が貢献できる分野は多いと考えている。今後は、日本発の技術として欧米をはじめとする海外企業との連携も積極的に進めていきたい。近い将来、微生物によるものづくりは環境社会の主力技術になるのではないかと考えている」(湯川氏)
記事:嵯峨崎文香
編集:北松克朗
トップ写真:Envato
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