J-STORIES ー 「あなたの夢は何ですか?」。世界の若者に投げかけた問いに200を超す国々から未来への希望と決意を語る熱い言葉が集まった。それが1冊の本になって1年。「夢」がつないだ若者たちの連帯は、いま、言語や国籍、宗教などの違いを超えて学び合う新しい教育活動として広がりを見せている。
自らの夢を語る世界の若者たちのメッセージを本にした「WE HAVE A DREAM」。北米、中南米、アフリカ、欧州、アジア、オセアニアの合わせて201カ国から届いた文章が500ページ以上にわたって、ひとり一人の大きな写真とともに掲載されている。英語版も出版されており、貧困層を助けるマイクロ・クレジットの普及者、ムハマド・ユヌス氏ら世界の有識者からも賞賛の言葉が寄せられた。
この本を主宰した社会活動家、市川太一さんにとって、本の出版につながる大きなきっかけになったのは、22歳だった2014年に青年版ダボス会議とも呼ばれる18歳〜32歳の若者による国際会議「One Young World」に参加したことだった。
190カ国以上から人々が集まる同会議は、まるで「小さな地球」に思えた。そこで偶然に聞いた北朝鮮からの脱北者、当時21歳のパク・ヨンミさんのスピーチに強烈な衝撃を受ける。
飢餓から逃れて中国に脱出し、人身売買の恐怖におびえながらも人生の夢を忘れなかったパクさん。そのスピーチは「自分にしかできないことを実行するという挑戦状」のようなメッセージだった、と市川さんは振り返る。
自分にしかできないことは何か、と模索する中で、市川さんがめざしたのは教育だった。「世界の人がお互いから学びあう。学びあいから世界の平和を実現したい」。そう思ったとき、自分自身の夢への道が見つかった、と市川さんは本の中で書いている。
市川さんはいま、「地球を1つの学校にする」ことをミッションに掲げ、イベントやワークショップを行うWORLD ROAD(東京都港区)を設立、CEOを務めている。
市川さんがめざす教育とは、世界中で生き方のロールモデルを共有することだ。WE HAVE A DREAMには、「部活の先輩や学校の先生のような(気軽に学べる)存在が世界規模でいたらいい」という市川さんの思いも込められている。ロールモデルを身近に感じられるよう、本の中では、読者層の同世代や年下の人たちに夢を語ってもらった。
出版から1年が経ち、WE HAVE A DREAM は大部ながら20代、30代の若い読者層を中心に5万部が売れた。そして、出版が追い風となって、市川さんがめざす教育活動にも新しい動きが出ている。
また、同じくアオバジャパン・インターナショナルスクールの文京キャンパス(東京都文京区)では、今年4月からパプアニューギニア、トンガ、パラオからメッセージの筆者3名にオンライン授業を依頼、ジェンダー(性的不平等)、ソーシャルアントレプレナーシップ(社会問題への取り組み)、環境問題についての約2ヶ月にわたるプログラムが行われた。
WE HAVE A DREAMに登場する人物を、ディスカバリーチャンネル(東京都千代田区)が映像化してドキュメンタリーとして放送する計画も進んでいる。
映像の完成発表として、9月7日には世界遺産にも選ばれている醍醐寺(京都府伏見区)で、ドキュメンタリー映像に登場する3人をオンラインゲストとして迎えるスペシャルイベントを開催。9月8日から21日までは一般向けに展示会を開催する予定だ。
WE HAVE A DREAMの第2版の出版についても前向きで、「オリンピックのように4年に1回ぐらいのペース」で新しい若者たちの声を本にしたいと市川さんは話している。
記事:澤田祐衣 編集:北松克朗
トップ写真:engy91 / Envato
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