J-STORIES ー 魚の刺身などを通じて激しい食中毒を引き起こす寄生虫アニサキスを瞬時に殺虫できる技術を熊本大学と民間水産会社が世界で初めて開発した。「パルスパワー」と呼ばれる瞬間的な巨大電流を使った方法で、従来の殺虫法である加熱や冷凍とは異なり、生魚の鮮度や旨味も保持できる。
技術開発に取り組んできたのは、熊本大学産業ナノマテリアル研究所の浪平隆男准教授らとアジやサバを主に取り扱う株式会社ジャパン・シーフーズの共同研究グループ。同大学はパルスパワーについて国内最大の研究設備を持つ。
この技術では、1万5千ボルトの電圧を100万分1秒だけ魚に打ち込む処理を数百回繰り返すことで、寄生するアニサキスを感電死させる。一方、魚の温度が上がらないように電圧などを調整しているため、うまみ成分や食感などは処理前のものとほとんど差がないという。
電気エネルギーのパルスパワーは、雷やカメラのフラッシュなどのように瞬間的に大きな力を出すのが特徴で、高度な分解・破砕力があり、様々な活用法が期待されている。同大学ではアニサキス殺虫だけでなく、資源確保と環境保全の両面で課題となっているコンクリートの再利用についても同技術の実用化研究を進めている。
コンクリートの再利用では、骨材と呼ばれる砂や砂利をセメントと分離することが必要だが、現行技術では分離効率が低水準にとどまっている。コンクリート用に電圧などを調整したパルスパワーを当てることで石や砂を傷付けることなく、高い効率で骨材再生が可能になる。
パルスパワーの技術は、放射能に汚染されたコンクリートにも応用できる。汚染している表面部分のセメントを分離すれば、コンクリート塊の砂や砂利を再利用できることがわかっている。
このほか、パルスパワーは排気ガスの除去や酸素の生成にも応用ができるが、それが可能なのは世界でも同研究所が保持するパルスパワー装置のみだという。
さまざまな用途に使用できるパルスパワーだが、課題の一つは実用化の初期投資だ。巨大電流であっても瞬間的な使用であるため、パルスパワーの電気コストは高くないが、発生装置には大きな投資が必要になる、と浪平准教授は話す。
同准教授はJ-Storiesの取材に対し、「アニサキスはあくまでパルスパワーの応用の一部だ」とし、「まずは(パルスパワーについて)世の中のニーズが知りたい。自分たちが気づいていないニーズを教えていただければ、パルスパワーでそのニーズを根本から解決できることを提案できるかもしれない」と話している。
記事:澤田祐衣 編集:北松克朗
トップ写真:Lazy_Bear / Envato
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