J-STORIES ー 老化や障害のために食べ物が飲み込みにくくなった人にも、食べる喜びを感じ続けて欲しいー。料理の見た目はそのままに、固さだけをなくして簡単に咀嚼できるようにする調理家電が登場した。
パナソニック発のベンチャーであるGIFMO(京都府京都市)が開発した「デリソフター」は、圧力鍋の仕組みを応用、ミキサーやブレンダーなどですり潰すことなく食材を柔らかくできる。ドロドロになりがちだった従来の嚥下食とは違い、料理としての見た目の美しさを維持できるので、高齢者や障害者にとって食事の楽しさが失われることがない。
これまで柔らかくすることが難しかった肉類に関しても、繊維を切るための専用のカッターを使用している。
デリソフターが生まれたきっかけは、共同発案者である同社の水野時枝さんと小川恵さんが抱えていた介護問題だった。楽しい食事の時間でも、障害があるために1人だけ嚥下食を食べなければならない親の姿を見て、「同じテーブルで同じ料理を食べられる喜びで笑顔と会話」を生み出したいという思いが募った。
小川さんは、誤嚥性肺炎を患っていた父から語っていた言葉を今でも覚えている。歩くことも出来ず、趣味であるカラオケも出来なくなり、人生最後に残された唯一の楽しみである食事が、なぜすり潰されぐちゃぐちゃになった鳥の餌みたいなものなのか。亡き父の言葉が胸に突き刺さったという。
こうした悩みは決して例外ではない。農林水産省の調査には、介護食品利用者から「味覚障害があり、味がわからないので、せめて食事の見た目だけでも楽しみたい」「嚥下機能が低下しているが、ミキサー食やきざみ食ではなく、形のある食事をしたい」などの様々な悩みが寄せられている。
水野さんは、116歳まで長生きした祖母との生活を振り返って、レトルトの介護職に頼ることなく、家族と一緒に手作りの家庭料理を最後まで楽しむことができた祖母は「幸運であった」と話す。美味しいものはいくつになっても人を笑顔にする、と水野さんは痛感したという。
水野さんは、まずは介護の国である日本で、47都道府県全てで広めていきたいと話し、小川さんは、介護職は食べる側だけでなく作る側もストレスを抱えている現状がある。作る側も食べる側もデリソフターを使用して笑顔になってほしい、とJ-Storiesの取材に答えた。
デリソフターは、今年の「フードテックグランプリ」において、審査員以外のパートナー企業参加者およびファイナリストチームによる一般投票で1位を獲得した。同グランプリにて2位を獲得した明治大学の宮下芳明教授は、自身のSNSでデリソフターについて、「見た目と形を崩さずにやわらかくする調理家電。なんとブロッコリーを海苔で切断できる!」と驚きの声を投稿している。
記事:澤田由依 編集:北松克朗
トップ写真:sonyakamoz/Envato
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