ウール再生、利用者の参加型に

日本初のエコサイクル始動

8月 25, 2022
by emi takahata
ウール再生、利用者の参加型に
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J-STORIES ー イタリアのビエラ、イギリスのハダースフィールドと並ぶ毛織物(ウール)の世界三大産地のひとつ、日本の尾州地域で、使い古したウール製品を回収し、綿に戻して再びマフラーやセーターなどとして再生する新たな循環型事業が動き出している。
高い品質の毛織物で栄えてきた同地域には、ウールを綿に戻す「反毛(はんもう)」と呼ばれる伝統技法がある。新事業は、輸入に頼るウールを無駄にしない昔ながらの技術を核に据え、ユーザーと生産者を回収・再生のエコサイクルでつなごうという試みだ。
「Rebirth Wool」(生まれ変わるウール)と名付けたプロジェクトを立ち上げたのは、岐阜県羽島市にある繊維素材・ファッションの老舗メーカー、三星グループの岩田真吾社長。
回収した古着などを反毛技術で綿に戻し、新しい製品として再び市場に出す。「作り手と使い手がつながる形でウールを再生する」(岩田さん)日本で初めての循環型事業になるという。
回収したウール製品の分別分解イベント。ボタンやタグ、また異なる繊維などを取り除く作業。     三星毛糸 提供
回収したウール製品の分別分解イベント。ボタンやタグ、また異なる繊維などを取り除く作業。     三星毛糸 提供
岩田さんがRebirth Wool事業に着手したのは、アパレル(ファッション)産業が抱える環境汚染への危機感からだ。
ウール製品を含むアパレル産業は、生産に膨大な水が必要で、大量の汚染水や温室効果ガス(CO2)を排出、使用済み品の多くは焼却・埋め立てによって廃棄される。国連貿易開発会議(UNCTAD)は繊維・アパレル産業(ファッション産業)を石油に次ぐ世界第2の環境汚染産業と批判している。
「この産業はサステナビリティ(持続可能性)の問題児。サステナブルというのはイメージではなく、もはや業界の存続に絶対必要な条件だ」と語る岩田さんは、「一番大きい問題は過剰生産、大量廃棄」と指摘する。
同社が130年余りの社業を営んできた尾州(愛知県一宮市を中心に尾張西部から岐阜県西濃に広がる地域)では、およそ60年前から「もったいない」精神が息づく反毛技術によるウール再生が行われている。
ReBirth Woolは、この技術で再生する中古のウール製品を使用者に広く呼び掛けて回収する。さらに、素材や色ごとの「分別」、ボタンや縫い糸を除去する「分解」という煩雑な工程を経て、同グループの中核企業、三星毛糸が反毛と再製品化を担当する。回収品の分別や分解は環境ベンチャー企業である株式会社ecommit(鹿児島県薩摩川内市)と共同で行う。
創業1887年の三星毛糸。ヨーロッパなど世界で行われるアパレルイベントに出展し自らも参戦する5代目代表 岩田真吾氏。     三星毛糸 提供
創業1887年の三星毛糸。ヨーロッパなど世界で行われるアパレルイベントに出展し自らも参戦する5代目代表 岩田真吾氏。     三星毛糸 提供
今年7月18日には大手商社の伊藤忠商事、ecommitと組み、回収ウールの分別分解を一般消費者が体験するイベントを行った。このイベントへの参加を通じ、一般消費者に製品を作り上げる工程や手間を理解してもらい、大量廃棄の抑制につなげたいという狙いからだ。
 一般への協力呼びかけにより、不要となったウール製品が400着も集まった。現在は回収した製品を綿に戻す反毛作業を行っており、10月ごろには製品を販売する予定だ。
岩田さんは、ReBirth Woolプロジェクトを通じ、ウールが環境に優しい天然素材であること、半袖など夏でも着られる快適な製品が多くあることなどについて、消費者の前向きな再認識が広がって欲しいと話している。
ウール製品回収後の工程。    三星毛糸ホームページ
ウール製品回収後の工程。    三星毛糸ホームページ
記事:高畑依実 編集:北松克朗 
トップ写真:EwaStudio / Envato
この記事に関するお問い合わせは、 jstories@pacificbridge.jp にお寄せください。

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