環境に優しい未来の消火技術:革新的な石けん系消火剤

少水量で高効率な消火を実現し、全世界の森林火災やウクライナの戦地の消火にも活用

3月 1, 2024
BY EMI TAKAHATA
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J-STORIES ー 火災の消化には通常、大量の水が必要となるが、災害時には、ライフラインが遮断されて、水による消火活動が思うようにできない。こうした問題を解決するために現在、消火活動の主軸を担っているのが少量の水に混ぜて使用する消化剤だ。少量の水量で優れた消火能力を持つが、広く普及している海外製など従来の消火剤は化学薬品を使っているため、水の泡が消えずに河川に流れ出たり、自然環境に残留したりといった環境負荷の問題が指摘されていた。また、泡が残りやすいため、現場の消火活動に支障が出ることも課題となっていた。
こうした中、無添加の石けんづくりを進めている福岡県北九州市の石けんメーカー、シャボン玉石けんが、少ない水量で早く消火でき、環境への負荷も少ない「石けん系の消火剤」を開発し、実際の消火活動で使用されるだけでなく、世界の森林火災や戦地ウクライナでの消火支援にも役立てている。
石けん系の消火剤を使用した消火実験。     シャボン玉石けん 提供
石けん系の消火剤を使用した消火実験。     シャボン玉石けん 提供
「石けん系の消火剤」は、ライフラインの遮断で水による消火活動がほとんどできず、火災による多くの犠牲者を出した1995年の阪神淡路大震災での教訓を活かし、より少ない水で消火可能であり、なおかつ環境負荷も少ない消火剤をという地元消防局の要望を受けて、同社が地元の大学や、企業とともに産学官の連携で7年に及ぶ研究を行い、開発された。
石けん系消火剤の特長(左が水による消火、右が石けん系消火剤による消火)。    シャボン玉石けん 提供
石けん系消火剤の特長(左が水による消火、右が石けん系消火剤による消火)。    シャボン玉石けん 提供
同社の「石けん系消化剤」は、合成系の化学薬品は使わず、天然系(石けん系)の界面活性剤を使用している為、浸透力に優れ、水だけの消化よりも、素早く消火が可能で、布団などに染み込むことで再燃を防ぐこともできる。
森林・泥炭火災の消火活動に使用される石けん系消化剤。     シャボン玉石けん 提供
森林・泥炭火災の消火活動に使用される石けん系消化剤。     シャボン玉石けん 提供
同社によると、地元の北九州市消防局とともに、取り壊し予定の6階建てアパートで行った消火実験では、使用する水量が17分の1で済むことが実証された。
天然の素材だけを使っているので環境への負荷も少なく、消火活動で生じる他の階への水濡れや破損もなく、泡切れが良いため、消化後の現場検証がしやすいというメリットもある。
こうした環境にやさしく、優れた消火能力を併せ持つ同社の石けん系消火剤は、「少水量型消火剤の開発と新たな消火技術の構築」の功績で総務大臣賞を受賞するなど高く評価されており、現在、北九州市の消防局をはじめ全国の自治体で採用されている。
土の中で起こる泥炭火災は水だけで消火すると土にうまく浸透せず、再燃する可能性が高いが、浸透力に優れた石けん系消火剤を使用することにより再燃を防ぐことができる。    シャボン玉石けん 提供
土の中で起こる泥炭火災は水だけで消火すると土にうまく浸透せず、再燃する可能性が高いが、浸透力に優れた石けん系消火剤を使用することにより再燃を防ぐことができる。    シャボン玉石けん 提供
また同社は2013年から、インドネシアなど海外の森林地帯における森林火災・泥炭火災の消化にも応用できる消化剤の開発・普及にも乗り出している。
世界有数の森林保有国であるインドネシアでは、焼き畑等による森林火災および泥炭火災が多発しており、煙害による健康被害や飛行機の離発着への影響、温室効果ガスの発生など、周辺諸国にも影響を及ぼす国際的な問題となっている。特に地中深くで堆積した植物「泥炭層」が燃える泥炭火災は、表面に水をかけるだけではなかなか消火することが難しく、長期化、広域化する危険性が指摘されている。
インドネシアでの火災の消火活動に使用される石けん系消火剤。    シャボン玉石けん 提供
インドネシアでの火災の消火活動に使用される石けん系消火剤。 シャボン玉石けん 提供
こうした中で、石けん系消火剤は地中深くまで浸透し、少水量で素早く消火することが出来るだけでなく、環境への残留性が低く、植物の生育に対する影響も与えない理想の解決策になりうると注目されている。
インドネシアの現地新聞に取り上げられる、石けん系消火剤を使用した消火活動の記事。     シャボン玉石けん 提供
インドネシアの現地新聞に取り上げられる、石けん系消火剤を使用した消火活動の記事。 シャボン玉石けん 提供
2023年に発表した同社の論文によれば、石けん系消火剤の泥炭火災に対する評価のため、インドネシアのパランカラヤ市で消火実験を実施したところ、消火に要した水量は、水のみに比べて約半分で済んだだけでなく、実験の10ヶ月後に水のみで消火したエリアと石けん系消火剤を使用して消火したエリアで同程度に植生が回復するなど、環境負荷もほぼないことが確認できたという。
合成洗剤の取り扱いから無添加石けんの製造販売に切り替えた当時は、17年間もの間赤字が続いた。     シャボン玉石けん 提供
合成洗剤の取り扱いから無添加石けんの製造販売に切り替えた当時は、17年間もの間赤字が続いた。     シャボン玉石けん 提供
一方、同社は、2023年8月に、ロシアによる軍事侵攻が続くウクライナに対して、砲撃などによる建物や森林火災の消火活動支援として、約300トンの消火水に利用可能な石けん系消火剤を送ったことを発表した。「石けん系消化剤」の消化能力を高く評価したウクライナ国家非常事態庁から支援の希望を受けて、人道支援として行ったという。
ウクライナへの消火物資支援の出発式。     シャボン玉石けん 提供
ウクライナへの消火物資支援の出発式。     シャボン玉石けん 提供
トラックの荷台に積まれるウクライナへ消火支援物資。     シャボン玉石けん 提供
トラックの荷台に積まれるウクライナへ消火支援物資。     シャボン玉石けん 提供
今後、海外への事業展開をしていく中で課題となるのは、それぞれの対象地域の特性に合わせた製品のカスタマイズだ。他の製品に比べ、無添加石けん由来の消火剤は価格が高くなり、より安く提供することが求められる。現地の水の性質に合った発泡性を持つ消火剤の開発も必要になるという。
シャボン玉石けんが取り組む「石けん系消火剤」の開発     シャボン玉石けん公式 YouTubeチャンネルより
水量を節約し、環境にも優しい無添加石けんの泡消火剤は今後さらに需要が広がると同社はみる。まだ、計画できる段階ではないが、「将来的には現地生産もできるようにしていきたい」と川原さんは話している。
記事:高畑依実 編集:北松克朗
アップデート編集:一色崇典
トップ写真:シャボン玉石けん 提供
この記事に関するお問い合わせは、jstories@pacificbridge.jp にお寄せください。
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