J-STORIES ー 人間の五感の中で最も研究が遅れているといわれる嗅覚を、デジタル技術によって今までよりも素早く正確に測定できる装置が今春にも登場する。測定の際に発生する「におい」の拡散を防ぐ機能もあり、専用の設備や施設を使うことなく、手軽な測定が可能という。
嗅覚の変化は日常的な体調不良だけでなく、アルツハイマー病などの難病を診断する重要な手掛かりになるが、これまで嗅覚測定は手作業に頼ることが多く、実施できる医療機関も限られていた。においのDX測定は被験者の負担も従来よりも軽減するとの期待も出ていると、名古屋大学にて神経内科学を研究する勝野雅央教授はコメントしている。
この装置はソニーが発売する「におい提示装置(NOS-DX1000)」。同社によると、装置内のカートリッジには約40種類の嗅素が入っているが、同社が昨年開発した独自のにおい制御技術「Tensor Valve」により、様々なにおいをタブレット上の操作で自在に提示ことができる。においが提示されるのは一瞬で、周囲に拡散することはない。
現在の嗅覚測定では、濃度の異なるにおいの素(試薬)をつけた紙を順番に嗅いでいく方式が一般的で、およそ30分以上の時間がかかる。また、試薬のにおいが漏れるため、専用の空調設備などが必要だった。
NOS-DX1000は、紙を試薬に浸す必要はなく、専用タブレットで嗅素を選ぶだけで装置からにおいが発生する。測定時間は10分程度と大幅に短縮でき、その結果も即座にタブレットに表示される。香りの強さの調整ができるほか、装置内に残ったにおいをすぐに除去できるため、場所を選ばず測定できるという大きな利点がある。
同社の嗅覚推進部門を率い、同装置の実用化を果たした藤田修二さんは、2015年に発表されたカートリッジ式のスティック型アロマディフューザーの開発にも関わっていた。「当時からニーズのあった嗅覚測定のDX化がようやく実現できた」と話す。
嗅覚測定用のカートリッジは第一薬品産業(東京都中央区)が販売する。5種類のにおいを8段階、合計39種類(1つは無臭)のにおいを測定できるという。
ソニーでは医療機関や研究機関などに検査・測定用として同装置を販売する予定だが、現在、医療系のみならず食品メーカーや飲料メーカー、さらには空間演出などを手がける企業からも問い合わせが来ているという。
神経変性疾患であるアルツハイマー型認知症、パーキンソン病、レピー小体型認知症では、嗅覚低下の把握が早期診断につながる例が多く報告されている。
同装置の開発者である藤田さんはJ-Storiesの取材に対し、研究・医療分野において、子供から高齢者まで幅広い層に健康と安心を届けたいと語る。そして、その基盤の上に、ソニーの多彩なエンターテイメントのひとつとして「におい」による感動も提供したいと話している。
同製品は、今年3月23日に法人、医療研究機関向けに発売される。
記事:澤田祐衣 編集:北松克朗
トップページ写真:Nardavar/Envato 提供
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