[PODCAST]外国人創業者が変える日本のスタートアップの形 (Part3)

In partnership with Disrupting JAPAN

9月 11, 2025
BY DISRUPTING JAPAN / TIM ROMERO
[PODCAST]外国人創業者が変える日本のスタートアップの形 (Part3)
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JStoriesでは、革新的な取り組みを行う日本のスタートアップを海外に紹介している人気ポッドキャスト番組 Disrupting JAPANと提携し、同番組が配信している興味深いエピソードを日本語で紹介しています。以下にご紹介するのは、Antler Japanのパートナーであり、スタートアップエコシステムの発展に尽力しているサンディープ・カシさんとのインタビューで、複数回に分けて記事をお送りします。
*オリジナルの英語版ポッドキャストは、こちらで聴取可能です。
Disrupting JAPAN:Disrupting JAPANは、Google for Startups Japan の代表で東京を拠点に活動するイノベーター、作家、起業家であるティム・ロメロ氏が運営するポッドキャスト番組(英語)。ティム氏が数年後には有名ブランドになるポテンシャルがあると見出したイノベーティブな日本のスタートアップ企業をピックアップして、世界に紹介している
Disrupting JAPAN:Disrupting JAPANは、Google for Startups Japan の代表で東京を拠点に活動するイノベーター、作家、起業家であるティム・ロメロ氏が運営するポッドキャスト番組(英語)。ティム氏が数年後には有名ブランドになるポテンシャルがあると見出したイノベーティブな日本のスタートアップ企業をピックアップして、世界に紹介している
Disrupting Japan の創立者で自ら番組ホストも務めるティム・ロメロ氏
Disrupting Japan の創立者で自ら番組ホストも務めるティム・ロメロ氏

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今回は、起業家であり、世界的なベンチャーキャピタルAntler(本社:シンガポール)の日本法人であるAntler Japanでパートナーを務めるサンディープ・カシさんにお話を伺います。
ベンチャーキャピタル(VC)には「アイデアには誰も投資しない」という格言があります。これは、アイデアは簡単に思いつくもので、それだけではほとんど価値がないということを意味しています。
この格言はある面ではまだ真実と言えますが、完全に正しいわけではないようです。
カシさんにはインタビューの中で、Antlerがどのようにアイデアに投資しているのかを説明してもらいました。Antlerは基本的には企業に投資しますが、もしアイデアを持って彼らのもとに行けば、そのアイデアをスタートアップに進化させるために多くのリソースを提供してくれるのです。
また、外国人起業家が日本で直面している課題や、日本の創業者は英語が話せないという偏見についても話しました。そして、外国人起業家たちがどのように日本の創業者のスタートアップの立ち上げ方を変えているのかについても深く掘り下げてあります。とても興味深い内容ですので、ぜひお楽しみください。
(全7回シリーズの3回目。第2回目の配信・Part2はこちらでご覧になれます。)

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Antlerのビジネスモデルと資金の仕組み

Antler Japanのパートナーであるサンディープ・カシさん 提供:Antler株式会社
Antler Japanのパートナーであるサンディープ・カシさん 提供:Antler株式会社
ティム・ロメロ(インタビューアー、以下ロメロ): Antlerのビジネスモデルについて伺いたいのですが、とても興味深いですね。創業者同士のマッチングや、まだ事業を始める前の「ゼロ日目」からのサポート、さらにアイデア出しの支援まで幅広く行っていますよね。こうした取り組みには当然コストがかかると思いますが、その資金は、すべてAntlerのVCファンド(投資家から集めたお金)から出ているのでしょうか?
サンディープ・カシ(以下、カシ): はい、その通りです。それが私たちのビジネスモデルの一部です。私たちは「ゼロ日目」から会社の立ち上げを支援し、その企業に投資します。つまり、プログラムの費用はこの仕組みに含まれており、投資資金の大部分はAntlerのファンドから拠出されています。
ロメロ:なるほど。つまり、その初期投資の一部がプログラムの運営費にあてられているということですか?
カシ:はい、その通りです。プログラムを通過した企業だけが対象になります。
ロメロ:納得しました。では、プログラムを通じて強力なチームを作り、投資家向けの短いプレゼンテーション(ピッチ)の方法を身につけたスタートアップが、その後ほかのVCから資金を調達してしまう、といった問題は起きたことがありますか?
カシ:日本ではそうしたことは起きていませんし、海外でもほとんど例はないと思います。というのも、こうした企業はまだ収益もなく、製品すらありません。あるのはパワーポイントのスライドとビジョンだけですから。
ロメロ:それでは投資家に売り込むのは相当難しいですね。本当に難しいです。
カシ:そうですね。VCとしては、スタートアップから「これが私のアイデアです。製品を作るには資金が必要です」と言われても、判断は難しいですよね。
ロメロ:その点、Antlerのビジネスモデルでは、あなたやチームが数週間にわたって創業者たちと一緒に働くことで、その人となりを把握できるわけですから、それは納得できます。なるほど、興味深いですね。

日本の大学IPを掘り起こす取り組み

ロメロ:御社が提供しているような教育的な支援は、日本ではまさに求められているものだと思います。ところで、Antlerのプログラムも、インキュベーター(起業支援機関)の大手である米テックスターズのように、企業や大学と提携して運営する形なのでしょうか?
カシ:いいえ、少し違います。大学と提携する場合、日本の大学にはまだ活用されていない膨大な知的財産(IP)が眠っています。私たちの提携の目的は、基本的にそうしたIPを掘り起こすことにあります。個々の知的財産そのものでも、それに関わる研究者や人材でも構いません。そうした人たちが10週間のプログラムに参加できる仕組みをつくり、私たちが投資できるようにしているのです。つまり、大学に資金を提供してもらうのではなく、知的財産を開放してもらうことを求めているのです。
ロメロ:なるほど。それでは、このような協力関係は具体的にどのように進めるのでしょうか?大学にアプローチして「私たちの取り組みを教員や学生に紹介させてください」とお願いするのですか?それとも特別なワークショップを開くのですか?
カシ:ワークショップを開催します。例えば、私自身、沖縄科学技術大学院大学(OIST)に行ったことがあります。実際に行うワークショップの多くは学生向けではなく、教職員向けです。なぜなら、私が教職員に伝えれば、その教職員が学生に教えることができるからです。
ロメロ:それはその通りですね。
カシ:それが、私たちが始めたことの大まかな内容です。私たちには「Antler Academy」というプログラムがあり、これはゼロから会社を立ち上げる方法を学ぶ基本的なコースです。スカウト担当者が大学や企業から参加者を見つけ、プログラムに招待しています。
ロメロ:それはあなたにぴったりのことだと思います。確か以前、富士フイルムビジネスイノベーション(BI、旧富士ゼロックス)で特許の収益化に取り組んでいたと記憶していますが、まさにそのような感じですね。
カシ:その通りです。とても印象に残る仕事でした。
写真提供:Envato
写真提供:Envato

大学発スタートアップの課題と解決策

ロメロ:日本の大学におけるイノベーションの最大の課題の一つは、教授たちが起業家になりたがらないことだと思います。彼らは学問の世界に留まりたいと考えています。だからこそ解決策は、教授たちが何に価値があり面白いのかを強調し、その分野に情熱を持ち実行力もある学生や専門家を見つけることだと思います。
カシ:私の考えは少し違います。私が考える日本の大学での問題は、博士号取得を目指している人や博士号取得後の研究者(ポスドク)が素晴らしいアイデアを思いついたとしても、多くの場合、教授たちがその会社のCEOになりたがることなのです。さらに、教授たちは助成金を得ることができるため、資金管理も任されています。これが大学発のスピンオフがうまくいかない原因の一つなのです。
ロメロ:しかし、特にここ2〜3年で、その状況に対して反発が多く見られるようになったと思います。例えば、CEO(最高経営責任者)、COO(最高執行責任者)、CPO(最高製品責任者)が、すべて大学の教授であるスタートアップを見かけることが増えました。それで、教授たちに「その仕事(教授職)を辞めるつもりですか?」と聞くと、「いや、辞めません」と返答が返ってくるのです。
カシ:助成金を得るためには教授と組む以外、選択肢がなかったのだと思います。しかし、Antlerが間に入り、「ゼロ日目のファンドを用意します。教授はアドバイザーとして残っても構いませんが、CEOにはなれません。誰がCEOになるのか、アイデアを思いついたあなた自身がCEOになるのか、それを決める必要があります。そして、実際にビジネスをリードできる人物を見つけるべきです。そうすれば、私たちは一緒に会社を作り上げることができます。そして、私たちはそのためのリソースとネットワークも提供します」と言うわけです。
ロメロ: ああ、それは素晴らしいモデルですね。
(第4回に続く)
第4回では、日本の大学発スタートアップの課題やCEOの選定方法、さらにAntlerが技術を市場に橋渡しする仕組みについてお話しします。
[このコンテンツは、東京を拠点とするスタートアップポッドキャストDisrupting Japanとのパートナーシップにより提供されています。 ポッドキャストはDisrupting Japanのウェブサイトをご覧ください]
翻訳:藤川華子 | JStories
編集:北松克朗 | JStories
トップ写真:Envato 提供

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本記事の英語版は、こちらからご覧になれます
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