J-STORIES - 東京都は、世界的なイノベーションの拠点となることを目指し、都市課題の解決に資するスタートアップや経済成長牽引力の高い高成長型のスタートアップとの協働を通して、イノベーション創出を図る取組の支援を行うプロジェクト「TIB CATAPULT(グローバルイノベーションに挑戦するクラスター創成事業)」を立ち上げた。東京都の強みとなるインダストリーやテクノロジーの領域で、日本の有望なスタートアップと大企業や、大学、海外支援機関などの複数企業からなるクラスター(集団)をつなげることを目的としたもので、様々なプレイヤーが連携することで、技術革新を推進し、スタートアップが日本の枠を超えて成長するための支援を目指す。
内向きのスタートアップを大企業などと連携することでグローバルに
2022年11月、日本政府は「スタートアップ育成5か年計画」を発表、2027年までにスタートアップ企業への投資額を10兆円規模に拡大し、スタートアップ10万社とユニコーン企業(評価額が10億ドルを超えるスタートアップ)100社を創出することを目標に掲げている。これに加え、東京都でもこれまでに国内外のスタートアップやその支援者が集い、交流する拠点「Tokyo Innovation Base (TiB)」をオープンするなど、スタートアップの海外展開を⽀援す る施策を打ち出してきた。
しかし、現状では、⽇本国内のスタートアップの多くが国内市場を主なターゲットに定め、海外展開を視野に⼊れたビジネス展開を⾏っている企業は未だ少数にと どまっている。
日本は、AgriTech(農業技術)、Biotech(バイオ技術)、Urban Innovation(都市革新)の分野などで強い実績を誇るが、高齢化と縮小する国内経済を背景に、国内市場のみに焦点を当てるスタートアップは成長の限界に直面している。また、国際競争力のある技術を持っていても、文化や言語の壁に阻まれたり、短期的な成功を重視する傾向が強く、多くの日本のスタートアップは内向きで、海外の広いマーケットに進出するよりも国内市場での地位確保を優先しているのが現状だ。
米国には2024年7月現在で、700社以上のユニコーン企業がある一方で、日本にはわずか14社しか存在しない。 TIB CATAPULTは、この問題を解決するために、有望なスタートアップを大企業を含むクラスターとサービス実装や共同開発などで連携させ、東京都のスタートアップエコシステムのグローバル化を推進させることを狙いとしている。
TIB CATAPULTは、グローバルな成長の可能性がある分野に焦点を当てた6者のクラスターにより編成されている。これらのクラスターは、スタートアップ、大手企業、学術機関、さらには海外機関が協業することで、有望なスタートアップを発掘し、グローバルに活躍するスタートアップに成長させることを目指す。6つのクラスターは、気候技術、農業技術、宇宙技術、モビリティ技術、スマートシティ、ライフサイエンスといった分野をカバーしている。
「東京がグローバルなスタートアップの舞台で重要な存在となることを目指す」
東京都は、日本政府の掲げた目標を達成できるように、各クラスターに対して今後3年間で最大6億円を支援する。 各クラスターは3年間で 20 件以上の⼤企業とスタートアップによる協働事例(大企業によるサービスの導入、調達、スタートアップへの出資や連携による企画開発等)の創出を目指す。さらに、採択されたうち一者は「グローバル推進クラスター」として、有力な海外支援機関(海外大学、海外アクセラレータ等)と連携した支援を受けられる予定だ。
10月24日にTokyo Innovation Base(TIB)で開催されたキックオフイベントでは、東京都スタートアップ・国際金融都市戦略室の吉村恵一室長は、急速に進化する市場におけるスタートアップと様々なプレイヤーが協働することの重要性を強調した。吉村室長は「東京がグローバルなスタートアップの舞台で重要な存在となることを目指す」と話す。
業界リーダーの見解:「大学とスタートアップの連携も重要」
一方、キックオフイベントに参加したPlug and Play Japanのキャシー・リュウ(劉倩)副社長は、このプロジェクトのグローバルな可能性について期待感を示した。Econovation City Cluster (ECC)の代表事業者である同社は、日本国内で40以上のパートナーと協力し、1000社以上のスタートアップを支援しており、大学とスタートアップの連携の重要性に注目している。
「これまで東京大学や慶應義塾大学などの学術機関とスタートアップエコシステムを結びつけることで、革新的なイノベーションが生まれやすい環境を育んできた。TIB CATAPULTを通じて、今後3年間で20件の協働プロジェクトを推進する予定だ」とリュウ氏は語る。
一方、宇宙事業の参⼊障壁を下げ、その先で地球課題の解決を⽬指すクラスター MUGENLABO UNIVERSEに参入するKDDIビジネス共創推進室グループリーダーの⾦⼭亜⾐さんは国際的な協力が宇宙分野における新しいビジネスの創出を加速できる、と主張する。
「(国際的な協力により)資源と技術を共有することが、私たちの能力を一層強化するための鍵となる」とキックオフイベントに登壇した金山さんは話す。
KDDIは、他のクラスターのメンバーとともに、様々な業界のスタートアップを統合し、今後3年間で20件以上の宇宙分野での協働を推進する計画だという。
翻訳:藤川花子
編集:一色崇典
トップ写真:TiB
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