JStories ー人の動きを3次元(3D)のデジタル画像データとして「見える化」するモーションキャプチャーの技術は、スポーツのフォーム分析やゲーム、Vtuberのキャラクターづくりなど様々な用途で活用が広がっている。この技術は目的に合わせた最善の動きやフォームを導き出すことができ、作業の効率化などだけでなく、社会問題の解決への期待も高まっている。
たとえば製造業では、工場などの現場で作業員の動作を判定することで、細かなミスやバラつきなどを検知し、ロスを減らして品質を安定させることができる。また、建築や溶接など熟練の技が求められる現場では指導員不足が課題となっているが、この技術を活用して熟練者の体の使い方を可視化し、共有することで作業の効率化が可能になる。海外に工場を設立する際にも、技術の伝達がしやすく学ぶ側も自身の成長を早く実感できる。
そうしたニーズをつかみ、高性能のモーションキャプチャー計測機器と画像処理システムによって業績を伸ばしてきた企業のひとつが東京・港区に本社があるアキュイティーだ。代表取締役 CEO兼CTO の佐藤眞平さんは画像処理ベンチャーの出身で、2015年に同社を設立した。
同社はAIがまだ一般化する以前から、動作を3次元でデータ化・解析する分野に取り組んできた。高性能のカメラで動きをとらえ、それを3次元で認識、解析するプロセスは、人体の様々な断面を分析し、問題個所を描出するMRI(Magnetic Resonance Imaging)に似て、人の動きの改善点を画面上にきめ細かく映し出す。
「長年、この分野の開発に関わってきただけあって、他社のシステムと比べて遥かに立体的な動作を正しく把握できているのが当社の強み。独自開発のカメラと画像処理技術によって、動作の認識精度は99.7%を超えるという結果が出ています」と佐藤さんは言う。
同社はかつて伝統技術を伝承させるプロジェクトを引き受け、宮大工のかんな削り作業の見える化に取り組んだことがある。熟練者は「腰を引くのがコツ」と表現していたが、若手技術者にはその感覚が伝わりにくかった。映像解析の結果、お尻の位置がぐっと沈み込んでいることがわかり、それを実践することでスムーズな理解につながり、若手はもちろん、海外への技術継承に寄与したという実例もある。
同社の技術は、現在、製造業を中心に広く導入されているが、近年は他分野で応用する事業の伸びも大きい。建築現場での作業技術や、美容院でのシャンプー、カット技術のように、あらゆる技術をモニタリングして効率化する。また、医療の現場では、手術のオペレーションを可視化、分析することによって、若手医師の技術向上が可能だ。リハビリテーションの際には、患者の動きをデータ化することで効果的なトレーニングを設計できる。スポーツの分野での応用も大きい。

今後は、健康管理などより身近な分野への展開も見据えている。教育分野では、子どもの動きをモニタリングすることで、身体機能の発達、興味の変化など成長の兆しを知ることができると期待される。また、スポーツ、健康の分野では、成長期のみならず、大人も潜在能力を発見することにつながり、高齢者においては身体能力の変化を検知することで予防医学に役立つ。
「スポーツ施設などで誰もが自分の動きを計測し、健康状態を把握できるようになることが理想。将来的には、あらゆるところにデジタルの鋭敏な視覚があり、誰もが動きをモニタリングすることで、有益な気づきが得られるような世の中になるといいと考えている」(佐藤さん)

海外への展開にも意欲的だ。ASEAN諸国の展示会に出展した際には、強い関心が寄せられており、さらにものづくり文化が根付くドイツを中心とした欧州での展開も視野に入れている。
「我々の技術は、色々な現場の可能性を広げることに役立つ」と佐藤さんは潜在的なニーズ掘り起こしに意欲的だ。「作業者も習熟度が上がることが喜びになり、世界中の社会課題を解決しながら一人ひとりが前向きに可能性を広げることができる。今後、世界中で“人の成長を支える技術”として利用してもらえることを期待している」(佐藤さん)
記事:嵯峨崎文香
編集:北松克朗
トップ写真:Envato
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