J-STORIES – 不特定多数の人々が集まる駅や繁華街、公共施設などで、群衆に潜む事故や犯罪の予兆をどのように素早く、的確にとらえるか?要人や一般市民の安全に欠かせない雑踏や施設での警備強化に向け、AI(人工知能)を活用した新しいセキュリティーシステムの導入が進んでいる。
買い物、ビジネス、エンターテインメントなど様々な目的で、昼夜を問わず人々が集まる東京・新宿の歌舞伎町。日本最大級の繁華街である同地区で今年4月にオープンした超高層複合施設「東急歌舞伎町タワー」が導入したのは、犯罪や事故につながる不審な行動や危険な状況をAIが事前に察知する最先端のシステムだ。
同システムを提供しているのは、行動認識AIを独自開発しているアジラ(本社:東京都町田市、木村大介(Kimura Daisuke)代表取締役社長)。同社のAI警備システム「アジラ」は、防犯カメラがとらえた人々の行動をAIが自律学習し、通常とは異なる「違和感」のある動きを予期しない危険行動として即時に通知し、事件・事故の未然防止につなげる。
分析できる対象は幅広く、転倒やけんか、破壊行為、ふらつき、長時間の滞在などの通常とは異なる行動のほか、迷子検索や車椅子検知などの見守り、イベント会場での混雑状況や人数把握もできる。 施設内の人の流れや性別や年齢層なども検知できるため、顧客の購買行動や万引きの常習犯の察知などにも役立てられる。
同社によると、「アジラ」は画像や動画から人物の姿勢を推定する精度や表示スピード、トラッキング性能などにおいて世界トップクラスの機能を持つ。
「これまでの防犯カメラは、事件や事故が起こった後の検証に使用するケースが多かった。アジラは起こる前の行動を違和感として察知し、1秒以内に様々なデバイスに通報することで、未然防止につなげる」と、広報担当の鈴木由香さんは話す。
鈴木さんによると、アジラは国内外の他社製品と違い、①人に特化したさまざまな行動パターンを認識できるため、動物や物などに反応する誤検知がほとんどない、②AIが持つ自立学習機能により、人の手を借りることなく精度が向上する、③1台のサーバーで最大50台のカメラ映像を処理できるため、大幅な監視コストの削減にもつながる-などの利点があるという。
アジラは現在、東急歌舞伎町タワーだけでなく、東京駅前の新丸ビルなどの大型商業施設や大学、病院にも導入されている。5月20日から6月下旬まで、東急電鉄鉄道車両基地内に設置されている防犯カメラに同システムを搭載し、警備オペレーションとの連携を図り、セキュリティー強化と監視体制の構築に向けた実証実験も進められる予定だ。
同社はアジラを「監視社会ではなく、安心・安全な空間を実現するための技術」と位置付けており、プライバシー保護や倫理規範を徹底するため、各国・各地域の法令順守などをうたった独自の「AI憲章」を制定。さらに、第三者を中心とした有識者会議の設立も進めている。
さらに同社は、今年3月から名古屋大学との連携で、歩行による人の感情分析の研究開発を開始。落ち着きのないストレス状態などを可視化するなど、心理状態で犯行の予兆行動を検知できるプロダクトの開発を進めており、今年中にも実装につなげたいという。
鈴木さんは「このプロダクトはこれまで人が行っていた仕事に変わるものではなく、人ができなかったことを実現するもの。今後は生活習慣や文化が異なる世界各国の人々の行動パターンの分析研究を進めることで、それぞれの場所に応じたシステムのカスタマイズも可能になるはず」と説明。
「AIの技術と人の力を融合することで、空間の価値を高めるインフラになることが目標」と話している。
これまで日本は諸外国にくらべて治安がいいとされてきたが、安倍前首相銃撃や岸田首相への狙撃などの重大事件が立て続けに発生、警備体制の強化が急務になっている。アジラでは今後、テロや警備当局による要人警護などにも活用できるよう、感情分析などを含め、対象区域における微細な動きを検知する研究をさらに進めていく、としている。
記事:大平誉子 編集:北松克朗
トップ写真:アジラ 提供
この記事に関するお問い合わせは、jstories@pacificbridge.jp にお寄せください。
***
本記事の英語版はこちらからご覧になれます。