J-STORIES ー 世界各地で広く料理に使われている鶏卵が、いま大きな環境変化に直面している。地球規模の気候変動や物価高騰などが鶏の飼育を直撃。日本などでは鳥インフルエンザの感染拡大で大量の殺処分が続く。さらには、「エシカル消費(倫理的消費)」意識の高まりを背景に、鶏卵を敬遠する動きも増している。
卵料理の食感やおいしさを失うことなく、鶏卵を取り巻く様々な課題を解決する対策はないか。そうした使命感から、日本のスタートアップ企業が伝統食材であるこんにゃく粉などから作った独自のおいしさを持つ代替卵食材を開発、日本だけでなく海外市場でも売り込みを活発化させている。
新食材「UMAMI EGG」を開発したのは「UMAMI UNITED JAPAN」(東京都台東区、山﨑寛斗CEO)。UMAMI EGGは粉末状だが、調理に使うと本物の鶏卵と変わらない味と食感を作り出す。
例えば、代表的な鶏卵料理であるオムレツやスクランブルエッグは、UMAMI EGGを豆乳と混ぜ合わせて加熱するだけで、鶏卵を使ったかのような見た目や食感にすることができる。フレンチトーストやカスタード、焼き菓子やプリンなどでも、卵に代わる食材として十分に役割を果たすという。
鶏卵に代わる植物由来の代替卵はすでに様々に使われているが、UMAMI EGGの独自性のひとつは加熱した時の食感を本物の卵に近づけた点だ。主原料に日本の伝統食材であるこんにゃく粉やにがりを使用、加熱することで固まるこんにゃくや豆腐の保水性を生かし、調理した卵のようなしっとりとした食感を生み出すことに成功した。
「(従来市場に出回っていた)大豆由来の植物卵(プラントベースエッグ)だとパサパサした食感が残るが、UMAMI EGGはこんにゃく粉の弾力性や保水性が生かされ、しっとりとした、フワフワの食感を楽しめる」とCEOの山﨑寛斗代表は言う。
UMAMI EGGのもう一つの特徴と言えるのが「うま味」だ。同社ではキクラゲを独自技術で加工し、鶏卵のうま味や風味を再現する素材として使っている。利用するのは生産過多で廃棄される寸前になっているキクラゲで、フードロス対策にも貢献しているという。
UMAMI EGGは25gで植物性卵500g(Mサイズの鶏卵10個分の量に相当)を作ることができる。家庭向けの価格は25gで1500円。鶏卵に比べて割高な設定だが、卵アレルギーを持つ人やコレステロール摂取を控えている人などだけでなく、ベジタリアン(菜食主義者)やビーガン(動物由来の食材もすべて避ける完全菜食主義者)も卵を食べずに卵料理のような味を楽しむことができる。
さらに、長期保存が可能なので、今後人口増加などによって鶏卵の増産が追いつかない場合の安定供給減としての役割を担うという将来性もある。
CEOの山﨑さんによると、UMAMIの創設は学生時代に経験した訪日外国人向けの観光ボランティア活動がきっかけになった。「ビーガンやアレルギー、宗教など、様々な理由から食べられないものがある人は少なくない。それなのに、日本だけでなく世界を見渡してもまだまだ食の多様化が追い付いていないことを実感した」という。
山﨑さんは大学卒業後も「食の多様性」をテーマに活動を続け、2023年3月に同社を設立した。「様々な垣根を取り除いて、異なるバックグラウンドを持つ人たちが同じテーブルを囲むことができる世界を実現していきたい」と山﨑さんは抱負を語る。
現在の主な販売先は、スイーツやベーカリーなどを製造・販売する食品メーカーやホテルなど。山﨑さんは「国内だけでなく、アメリカの大学や企業の給食などへの販路も拡大していく」という目標を掲げており、今年1月には米国市場への進出を目指し、海外投資家から総額50万米ドル、8月にも2.4億円の資金調達を実施した。
さらに、同社は新しい素材として、製菓業界、製麺業界、練り物業界などにもニーズの高い卵白の代替品開発を進めており、試作品の完成も近いという。
山﨑さんは「今ある商品は、それだけで卵の代わりになるというものではなく、何かしらお客様にカスタマイズして加えていただく必要がある。今後は、そのままで卵の代わりになるという製品にアップデートしていきたい」と話している。
記事:大平誉子 編集:北松克朗
トップ写真:UMAMI UNITED JAPAN提供
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